第14話エルフの村へ


 翌日あたしたちはエルフの村へと向かっていた。




 「ユカもとうとう自分の世界に戻りますか」


 村に向かいながらファイナス市長はあたしにそう語り掛けてくる。

 あたしは静かに頷きそして言う。


 「それが師匠の望みであり今までこの世界に従事してきた代償ですわ。師匠はもう充分にこの世界の為に働いてくれましたわ」


 あたしがそう言うとファイナス市長は少し寂しそうに頷く。


 「確かにそうですね。ユカにはいろいろと世話になりました。この事はマーヤには?」


 「既に師匠から連絡が行っていると聞きましたわ。師匠は『時の指輪』を返したいと言っていましたがマーヤさんにそれを断られ、向こうの世界に行ってもそれをつけいてくれと言っていたそうですわ」



 苦楽を共にした戦友が元の世界に帰ると聞きマーヤさんも寂しいのだろう。


 師匠の話ではマーヤさんは誰とも再び一緒になるのを拒んでいるらしい。

 だから「時の指輪」も師匠に持っていてもらいたいらしい。



 「マーヤもまだまだ若いんだからいい加減過去の男の事なんか忘れればいいのに、そう思うでしょエルハイミ!」


 「いや、だからと言って何故私に抱き着くのですの? 私は過去の女を忘れるつもりはありませんわよ!」



 シェルは「え~っ、いいじゃ~んっ!」とか言っているけどあたしにはティアナがいる。


 絶対転生したティアナを見つけ出してまた一緒に暮らすのだから!



 「さて着いたぞ、門はまだ空いている。はぐれない様について来てくれ」


 先導していたソルガさんが結界の門を指さす。


 と、あたしはその文様に気付く。



 「そう言えばあの文様、以前どこかで見たような気がしますわ‥‥‥」



 「あの文様は『魔王』の侵入を拒むためのものです。文様自体が『魔王』を意味しますからその文様が覚醒した魔王には体のどこかに浮かび上がるのです」


 ファイナス市長はそう言って門の上にある文様を見る。

 蔓で出来たようなアーチの門はよくよく見るといろいろな文様があった。



 「『魔王』の文様ですの‥‥‥」



 うーん、どこかで見たような記憶が‥‥‥

 いや、多分最初に見たのはここだったのだろう。


 その後何処で‥‥‥



 「姉さま、あのエルフの人行っちゃったよ?」


 カルロスがそう言ってあたしのすそを引っ張る。


 「いけませんわ、バティック、カルロスこの後門を通りますけど決して振り返ったり喋ったりしないでですわ。この先の金色の世界ではぐれると何十年、何百年とさ迷う羽目になってしまいますわ」


 「姉さま、そう言う事は先に言ってください。危うくカルロスが先に入るところでした」


 バティックはカルロスの首根っこを押さえあたしの説明をもう一度カルロスに聞かせる。


 危うくカルロスが行方不明になる所だった。



 「シェル~、早く行こうよぉ~」


 マリアがシェルに引っ付き催促する。

 あたしたちはソルガさんやファイナス市長の後について門をくぐるのだった。



 * * *



 「うわっ! 凄い!!」


 「本当だ! こんなの見た事無い!!」



 バティックもカルロスも門を抜けエルフの村の入り口に立ち驚きの声をあげる。


 「そう言えば二人は初めてだっけ? ここがあたしのふるさとよ」


 シェルは振り返りバティックとカルロスにそう言ってにっこりと笑って言う。



 「ようこそエルフの村へ!」



 その様子は背景の美しくも壮大な樹木も相まってシェル本来の美しさを引き出す。




 むう、確かにエルフの中でも飛び切りの美人なのは認めるけど、シェルなんだよなぁ~。

 ほんと、残念な奴。



 「ねえ、エルハイミ。今もの凄く失礼なこと考えていなかった?」


 「そ、そんなことは有りませんわよぉ」


 思わず視線を外すあたし。

 しかしシェルはそんなあたしの腕を取ってニコニコしている。



 「さ、旦那様。ここからはちゃんと夫婦をしてもらいますからね」



 しまった、そのこと忘れてた!

 早速シェルは「チュー」しようとしてくる。



 「こら、エロフ! いきなりお母様に何しようとしているのです!!」


 「いいの、私たちは夫婦なのだから! ね、エルハイミ「チュー」して!!」



 怒るコクだが立場上シェルはあたしの嫁となっている。


 迫るシェル、唸るコク、それを面白がっているセキ、そしてそんな様子を生暖かく見守るクロさん、クロエさん、ショーゴさん。

 あ、マリアは訳分からなくバティックたちにくっついて行っちゃった。



 「シェル、それくらいにしなさい。今はエルハイミさんを問題の赤子の所にお連れするのが先です」



 ファイナス市長がそう言うとシェルは渋々あたしから離れる。


 ふう、助かった。

 しかしこのままではまたシェルに唇を奪われてしまいそうだ。





 あたしは不安を抱えたままファイナス市長に案内されるのだった。 

  


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