第3話みちくさ
「はぁ~ですわぁ‥‥‥」
あたしは大きなため息をつきながら歩いている。
「お母様一体どうしたと言うのですか? 朝からため息ばかりついて」
コクはあたしの隣を歩きながら黒い長くなった髪の毛を揺らして見上げてくる。
そのしぐさは可愛らしいのだけどまさしく幼い時のあたしを見ている様だ。
そろそろ春の日差しになりつつあるこの街道は道端に菜の花が咲き始めていた。
「陽気が良いってのに変なエルハイミ母さん。ところでそのユーベルトって街には後どれくらいで着くの?」
コクの更にむこう側にやっぱり並んで歩いているのは真っ赤な髪の毛のセキ。
何が楽しいのやら道端の草を摘んでくるくると回している。
「この道なら歩いて後三日という所か? 主よ」
ショーゴさんにそう言われて周りを見渡せば確かにそのくらいでユーベルトの街に着くだろう。
そうするとだいぶ西に来ていたのだなぁ。
「そうですわね大体歩いて三日という所でしょうかしら? ふうぅ~」
「またため息? ほんと変なエルハイミ母さん!」
セキはするりとあたしの前まで出てきて後ろ向きに歩きながらあたしを見る。
何処と無くティアナの面影を残しているけどあたしにも似ている。
きっとママンが見たら大きくなったセキを抱き上げて大喜びするのだろうなぁ。
最後に会って一年経て無いのにいきなり五、六歳くらいになって現れてもママンは気にもしないのだろうなぁ~。
コクの時なんかいきなり十歳くらいになっても全然気にも留めなかったもんなぁ。
そしてあたしのため息の原因はあたしたちの先を歩くあのお気楽エルフ。
「ふんふんふ~ん♪ ああ、すべてが新鮮に見える! ねえあなた、今晩何か食べたいものある? あ、もしかして、あ・た・し? きゃぁん! やだぁっ! うふふっ!!」
先晩のあの件のおかげで朝から舞い上がっている。
「そう言えばお気楽エルフが更にお気楽になっていますね、お母様?」
「え~? シェルはいつもあんな感じだと思うけど?」
コクがジト目で見ているとマリアがコクの頭の上に載って手を目の上にかざし遠くの様子を見る仕草でシェルを見る。
「なんでも良いで嫌がりますが暇でいやがります」
「クロエ、黒龍様の前であるぞ。控えんか」
平常運転だなぁ、クロエさん。
あたしたちは平和にポカポカ日和の中散歩するかのようにユーベルトへ向かって行くのだった。
* * *
「エルハイミ母さん、肉! お肉食べたい!!」
「セキ、先程私から魔力を吸ってまだ何か食べたいのですの?」
「赤竜はわざと肉を食べる癖がありますからね、わたしは血肉をそれほど好まないのですが‥‥‥」
向こうでセキとコクに魔力供給の授乳をして戻ってくるとシェルたちが晩御飯の支度をしていた。
シチューにパン、チーズというオーソドックスな食事。
「魔力とご飯は別物よ! だって魔力じゃお腹ふくれないもの!!」
しかしセキはお肉を食べたがっていた。
まあ、太古の竜たちは魔力さえあれば飢える事は本来ないのだけど特にセキは肉を好む。
「しかしセキよ、肉と言っても携帯用の塩漬け肉しかないぞ?」
ショーゴさんはシェルが取り出した塩漬け肉を掲げる。
「えー、ヤダそれしょっぱいんだもん! ショーゴ、他には無いの?」
「あいにく今はこれだけだ。お前がしょっちゅう肉を食いたがるからポーチに入れて置いた新鮮な肉はもうないぞ?」
ショーゴさんはシェルを見ながらそう言うとシェルは首を縦に振る。
「え~、お肉ぅ~、お肉ぅ~っ!!」
駄々をこねるセキ。
それを見ていたコクは右手をかざす。
「聞き分けの無い子ですね。少し教育しましょうか?」
「まあ待てコク、この近くの林ならウサギくらいいるだろう、捕って来てやる」
そう言って子供好きなショーゴさんは立ち上がる。
相変わらずコクやセキには甘い。
するとシェルもおもむろに立ち上がった。
「大体できたから後はクロエがお願いね。ショーゴが行ったら時間がかかりすぎるわ、そうだ、エルハイミ一緒に行かない?」
「私ですの? まあ、良いですわ。コク、セキ大人しく待っているのですわよ?」
「やったぁー! お肉、お肉ぅ~♪」
「ふう、お母様がそう言うのなら仕方ありません」
夕食の準備は任せてあたしとシェルは森に狩りに行くのだった。
* * *
「よっ! ごめんね」
ひゅんっ!
とすっ!
シェルの矢が鹿を捕らえる。
その矢は魔法でもかかっているかのように木の幹をよけ鹿の急所を貫く。
多分鹿にしてみれば一瞬の出来事で痛みを感じる前に絶命しているかもしれない。
「こんなもんでいいかな?」
「十分すぎますわよ」
既にイノシシに二頭、鹿一頭、そしてウサギ三匹、山鳥二羽も撃ち取っている。
しかもこの間三十分。
流石としか言いようがない。
「さてと、回収回収。あ、エルハイミ血抜きはいいから。ポーチに入れれば新鮮なままだから大丈夫よ」
エルフの魔法の袋改魔法のポーチ。
便利アイテムの究極で腰に付けているポーチはほとんど数次元ポケット。
特にあたしたちのはエルフの長老メル様が直々に作った特殊仕様なのでポーチの中には初号機まで入っている。
そうそう、初号機はあの後イオマが整備して使えるようにはしてあるのだけど、適合者が見つからず結局あたしが預かる事となった。
アイミは今はボヘーミャに行っている。
ジュメルの「狂気の巨人」を倒して人類滅亡の心配がなくなったのでいよいよ師匠を元の世界に返す準備が始まった。
今頃ボヘーミャでは次期学園長選定で大騒ぎになっているだろう。
もし師匠があちらの世界に戻るならあたしも挨拶に行こうと思っている。
「ね、エルハイミいいよね? ちょっとだから‥‥‥」
「はえっ?」
気付くとシェルの顔があたしの間近にまで迫っていた。
息が荒く少し頬が赤い。
「いいよね、チューは良いって言ってたもんね!!」
「こ、こらっ! シェルぅっ!!」
もう我慢出来ましぇーんっ!! という声が聞こえそうな位シェルは興奮している。
「ね、チューだけだから、先っちょだけだからぁっ!」
「なんなのですの先っちょってぇっ!?」
その後押し倒されて唇を奪われまくってしまった‥‥‥
* * *
「はぁ~(テカテカ)」
「ううぅ、まさか入れられるとは思いませんでしたわ‥‥‥」
あたしはげっそりして帰って来た。
え?
何を入れられたかって?
ナニって、舌よ、舌!!
流石にディープキスまで行かないけど無理やり舌入れられて舌先を絡められたのよ!!
そ、それだけだからね、他はされてないわよ!!
か、感じてなんかないもん!!
「どうしたのですお母様?」
「あれ? シェルがなんかお肌てかてか?」
戻るとコクがあたしの様子に気付きセキが余計な事を言う。
「お気楽エルフが? ‥‥‥ああぁぁっ! お母様っ! シェルぅっ! まさか!! くっ、赤お母様がいなくなってしまってお母様がさみしい所っ! くっ、シェルのくせになんと言う策を巡らせる!! お母様、私も!」
そう言ってコクは抱き着いてくる。
「コ、コクっ! だめですわっ!」
「あ~、じゃあもう一回、良いよねエルハイミ!!」
「のわっきゃぁっ! シェルぅっ!!」
騒ぐあたしたち。
「はぁ、やっといつも通りに戻りやがりましたですね? まあ、主様らしいでいやがりますけど」
「ふむ、黒龍様もお元気になられたようで何より」
「ああ、これで主らしくなってきたな。さて、この鹿でも解体するか」
焚火を囲み合い相変わらず騒がしくなるあたしたちであった。
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