第4話ユーベルトの街


 ガレント王国の衛星都市ユーベルト。



 王都ガルザイルから大体馬車で三日弱の所にあるあたしの故郷。

 もともと王都からも近い事も有りそこそこ栄えていた。


 ハミルトン家はこの地を納める伯爵家。


 あたしの生家でもある。



 「へぇ~、ここがユーベルトなんだ。なんかティナの町や北のホリゾン帝国よりずっと活気があるね? あっ! 串焼き肉売ってる!! エルハイミ母さん買って!!」


 セキは街に入りきょろきょろと見まわしていたけど露店の串焼き肉のお店を見ると一目散に走って行った。



 「全くセキときたら仕方ありませんわね? みんなも食べます?」



 あたしは仕方無くセキの後を追う。



 街自体は工業化がだいぶ進んでいたようだ。

 マシンドール工房があちらこちらにあり未だ終わらぬ戦争の後方支援としてマシンドールのパーツを作っている。



 「あれ? エルハイミあれってエルハイミが作ったやつ?」



 シェルに言われ見ればオセロや将棋専門店なんてのもある。


 実は生前に爺様がこれらの遊戯を大そう気に入って街の工房で作らせていた。

 原理は簡単だからすぐにでも広まり今ではユーベルトの副産業として結構人気がある。



 そう言えばティアナはオセロがお気に入りだったっけ‥‥‥



 あたしはそんな事を思いながら露店で串焼き肉を買う。



 「こ、これはなかなかでいやがります! 主様、もう一本所望するでいやがります!!」


 「あーっ! クロエずっるぅうぃいいいっ! エルハイミ母さんあたしも!!」



 ここの露店の串焼きはなかなかスパイスが効いていて美味しい。

 あたしは笑いながら又串焼き肉を買うのだったが‥‥‥



 「いたか!?」


 「いや、こっちにはいない!」


 「探せ! まだそう遠くへは行っていないはずだ!!」


 

 いきなり大通りに出てきた男たちが辺りをきょろきょろとしている。


 冒険者‥‥‥ でもないか?

 でも剣を腰につるしたりしてごろつきともちょっと違う。


 うーん、ユーベルトもなんか物騒になって来たのかな?



 「なんだろね? 騒がしい」


 シェルも珍しく串焼き肉を食べている。

 肉自体苦手なはずだけど食べれない訳では無い。


 エルフもたんぱく源で動物を食べる。

 むしろ蚕のさなぎなんかを食べる習慣は驚かされるのだけど。



 「はへぇ? 何らろあのひほぉ??」


 「セキ、行儀が悪いです。喋るか食べるかどちらかにしなさい」



 コクにそう注意されたセキは慌てて串焼き肉を咀嚼して飲み込む。



 「んんっ、ごくん! ねえあれなんだろ? あそこの壁の所、二人そっくりな子たちがいるね?」



 言われてそちらを見ると姿形がうり二つの人物が‥‥‥



 「あれ? あれって‥‥‥」


 「バティック、カルロス!!」



 あたしは思わず二人の名前を呼んでしまった。

 すると二人は大いに驚き先ほどの男たちも反応を示す。



 「いたぞ! あそこだ!! 捕まえろ!!」


 「仲間を呼べ! 『操魔剣』を使われたらひとたまりもない! 数人で囲め!!」



 男たちはいっせいにバティックやカルロスに群がる。

 二人は慌てて逃げようとするけど既に呼んだ仲間が来たようで囲まれる。



 「なんだかわかりませんが私の弟に乱暴は許しませんわ!! 【拘束魔法】バインド!」



 あたしは慌てて男たちに魔法のロープを投げつけ絡めとる。

 それは一瞬で男たちを縛り上げ、菱形の網目のヨガで言う「水魚のポーズ」のように縛り上げる。



 「げっ! 姉さま!?」

 

 「あ、ほんとだ、姉さまだ!」



 二人は魔法でからめられる男たちを見てあたしに気付いた。

 しかしそのまま踵を返して壁の向こうに逃げ去ろうとする。


 「まったく、何なのでしょうかしらですわ?」


 あたしはすぐさま【異空間渡り】をして二人の前に姿を現す。



 「うわっ! 姉さまっ!!」


 「やばっ!」



 二人はいきなり壁の上に現れたあたしに驚いている。



 「二人ともこれはどう言う事ですの? ちゃんと説明しなさいですわ」



 壁の上で腕組みをするあたし。

 しかし二人は顔を見合わせて苦笑している、真っ赤になって。



 「どうしたのですの?」


 不思議に思いあたしは首をかしげる。



 「あ、あのぉ~姉さま、そこに立たれると‥‥‥」


 「見えてるよ、姉さまのパンツ」


 「え”っ?」



 それはそうか、このアングルだとスカートの中丸見えだ。

 あたしは思わずスカートを押さえる。


 「こらっ! 姉のパンツ覗くのではありませんわっ! もう、バティックもカルロスもエッチになったのだからぁ!!」


 思わず赤面するあたしだった。



 * * *



 「それで、これは一体どう言う事ですの?」



 魔法のロープで縛られた男たちの前であたしは両腕で首をつかんだバティックとカルロスを離した。



 「姉さま、相変わらず当たっていると言うのに!」


 「まあ、これはこれで気持ちいいから僕は好きなんだけどね?」



 やっと解放されて赤面するバティックとニコニコ顔にカルロス。


 「そんなことよりこれは一体どう言う事か説明してもらえますかしら?」


 「うーん、姉さま元気になったようで安心だね、兄さん」


 「ま、まあ、姉さまを探しに行く手間はこれで無くなったけど‥‥‥」


 ふたりはあたしに向ってそう言い始めた。


  

 あたしが元気になった?

 探しに行く手間が省けた?



 「あ、あのぉ~お取込み中すみませんがもしかしてエルハイミお嬢様ですか? すみませんがこれ外してもらえませんか? バティック様とカルロス様もエルハイミお嬢様がいれば逃げられないでしょうから」


 首だけ器用にこちらに向けてあたしに捕まっている男はそう言った。




 あたしはバティックとカルロス、そしてこの男を見比べるのだった。



 * * *



 「つまり私を探しにバティックとカルロスが屋敷を抜け出したと? そして二人は冒険者になって私を手助けしたいと言うのですわね?」


 全員正座させてあたしは事情を聴く。

 あたしのまとめに全員が首を縦に振る。


 「それでハミルトン卿よりお二人を止めて連れ戻すよう雇われたのです」


 男たちの代表なのだろう、彼はあたしにそう説明する。

 まあ、普通じゃこの二人は捕まえるの難しいだろうからね。


 「それでバティック、カルロスはまだ私を手伝って冒険者になると言うのですのですわ?」


 「勿論そのつもりです姉さま!」


 「僕らも結構強くなったんだよ姉さま?」


 もう一年近く会っていなかったはずの二人はだいぶ背が伸びあたしを超え始めていた。

 そう言えばこの二人もうじき成人じゃなかったっけ?


 あたしはため息をつく。

 とにかく一旦家に戻った方が良いみたい。


 いきなりの帰郷でいろいろとごたごたと。




 あたしはため息をついてから郊外の丘の上にある実家の屋敷を見るのだった。

 

   


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