第一章

第2話通知


 「戻って来いって言うのですの?」


 

 焚火をはさんであたしはシェルの受け取った連絡の内容を聞いていた。


 「うーん、ちょっと違うわね。詳細を受け取るには風のメッセンジャーを使った方が良いらしいのよ。なのでここから一番近い所ってエルハイミの実家、ユーベルトになっちゃうわけよ」



 実家かぁ~。



 最後に戻ったのは半年以上前だからなぁ。

 ティナの町でふさぎ込んでいた時にもメッセンジャーはどんどん来ていたらしいけどほとんどシェルが代わりに見ててくれたからなぁ。


 なんか今更パパンやママンに会うのが気恥ずかしいし申し訳ない。



 「お母様、お婆様に会いに行かれるのですよね?」


 「あ、そういやあたしよく覚えてないけどエルハイミ母さんの実家ってどんな所よ?」


 「それはねぇ~、美味しいチョコレートあるところだよ~」



 コクやセキ、マリアは既に行くことを前提に話始める。

 あたしは飲みかけのお茶を一気に飲む。


 「悩んでも仕方ありませんわ、詳細を知る為ですわ、ユーベルトに戻りましょうですわ!」


 あたしの決定にみんなは特に異論もなくユーベルトに戻る事となったのだった。



 * * *



 「ねえ、エルハイミ起きてる?」


 「シェル? どうしたのですの?」



 あたしとコク、セキは同じ毛布にくるまりながら寝ていると隣に寝ていたシェルが話しかけてきた。



 「その、ティアナが死んじゃってエルハイミって未亡人あつかいになるのよね?」


 「まあ、形式的にはそうなりますわね?」


 未亡人って言われるとなんか寂しいけど、確かに形式的にはそうなる。



 「うん、それでさ、ティアナが見つかるまであたしが奥さんをしちゃだめ?」


 「はぁいっ!?」



 いきなりの事にあたしは思わず変な声を出してしまった。



 「今度エルハイミの実家に戻ったらあたしがエルハイミのお嫁さんって事にして欲しいの、次の噂ってエルフの村じゃない? 外の世界でも夫婦っていう風にしないと渡りの間にあたしとエルハイミの関係が広まり始めてるのよ、そうなると次に村に戻ったら‥‥‥」



 シェルは横になったままあたしを見る。



 ティアナがいなくなってまだ半年よ?

 それなのにあたしがシェルを娶る?

 いや流石にそれはとは思うけど、次の場所がエルフの村ともなればそうも言っていられない。



 そう、次のティアナ転生の噂は本来あり得ないエルフに赤毛の子供が生まれたと言う事なのだ。



 特にシェルたちのエルフの村では純血に近いエルフが多い。


 ハーフエルフでさえ嫌がるその村の雰囲気は閉鎖的で、そこに突然異変の赤い髪のエルフが生まれたともなれば大騒ぎな訳だ。

 通常シェルたちは金色の髪の毛、透明から白っぽい金色の髪の毛が多い。

 まれに茶色に近い金色もいるらしいけど基本的にはみんな金色だ。



 唯一違う色が生まれるとすればそれはハーフエルフ。



 大体が人間との混血児だけどその場合は人間の要素も色濃く出る時がある。

 しかし今回は純血のエルフに赤い髪の毛の子供が生まれたと言うのだ。



 「メル様たちは『緑樹の塔』で子育てに忙しくて頼りにならないし、ファイナス長老も何処まで助けてくれるか分からないもの。今回エルハイミの実家であたしが正式にお嫁さんって事になっていればそれを風のメッセンジャーで言いふらせるし」


 「シェル‥‥‥」



 事情は理解できるけど、実家に戻って旦那死んだから新しい嫁連れて来たって言ったら何て言われる事やら‥‥‥



 「お嫁さん兼従者じゃ駄目?」



 あたしが黙り込んでいるとシェルは半身を起こしそう言ってくる。

 そのまなざしは真剣そのもの。


 「‥‥‥シェル、一つ条件がありますわ。私の事襲ってはいけませんわよ?」


 「ええっ!? 夫婦なのに!?」



 いや、それエルフの村での便宜上でしょうに!?



 「‥‥‥せめてチューはさせてよ。そのくらいならいいでしょ?」


 「シェル?」


 「だってぇ、エルハイミ襲えないならせめてチュー位させて! 私は襲わないって約束するけどそのくらいはさせてよ、じゃなきゃエルフの村で怪しまれるわよ!?」



 ううっ、確かにそれはあるかもしれない。


 

 「でも、それも私の同意なければしてはいけませんわよ?」


 「うん、それでもいい! 約束する、エルハイミが襲ってくれるのならあたしは言う事無いモノ!!」



 はい?

 あたしがシェルを襲う?

 いやいや、無い無い。



 「ふふっ、やったぁ! これであたしもちゃんとエルハイミのお嫁さんだ! いつか必ずあたしを襲うまで待ってるからね! それじゃお休み!!」


 一方的にそう言うとシェルは嬉しそうに目をつむって寝てしまった。



 あたしはしばし呆然としていたが思わず夜空を見上げながらつぶやく。



 「う、浮気じゃないわよ、ティアナ!」




 そして色々考えさせられて眠れない夜を過ごすのだった。

 



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