第6話

「あっ、えっと、その、うちの高校、ぶ、文化祭の部活は、兼部できないから、演劇部にいたらもう、ブラバンに戻れなくなるよ」

「なるほどね。そんなこと考えたことなかった」


 彼女は両手で頬杖をつき、じっくり考え込む。


「でも、ブラバンと演劇じゃ、全然違うから悪いけど――」

「いや、に、似てるよ」


 彼女が聞き返す前に、僕はたたみかけた。


「ブラバンはが、楽譜見て、それを元に、与えられたや、役割をこなす。え、演劇も、台本を読み、そ、その役を演じ切る。一緒、でしょ?」


 無理やりすぎるこじつけだが、こうでも言わないと、彼女の不安は払拭できない気がする。


「分かった。私、演劇部に入る」


 僕は驚いて、フォークに刺さるケーキの一切れを、床に落としてしまう。間違いじゃないかと思い、僕は聞き返す。


「はっ、入ってくれるの?」

「その代わり、私がセリフ忘れたり、間違ったりした時は、フォローお願いね」

「大丈夫だよ。僕もセリフ忘れたり、まっ、間違ったりするから」

「全然ダメじゃん、それ」


 二人は大笑いする。今まで、こんなに長く人と話したことがなかったけど、案外楽しい。彼女は僕のどもりを気にしていないから、余計に嬉しい。


「この包帯はいらなくなるね」


 彼女が包帯をほどくと、ためらい傷だらけの手首があらわになる。僕はそれから、目を素早くそらす。


「これからも、同じクラブでよろしくね、沢木君」

「こちらこそ、よ、よろしく、です」


 彼女が右手で握手を求めてきたので、僕も右手で握らせてもらった。彼女の手は温かくて、柔らかかった。


(続く)

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