第4話
放課後、正門には飯野さんが先にいた。彼女は嬉しそうな表情で、僕を見てくる。とても、さっきまで自殺しかけた人だとは思えない。
「近くに、ケーキが美味しい喫茶店があるんです。そこで、お礼をしたいんですが、いいですか?」
彼女に強引に押し切られる形で、僕はうなずく。彼女が代金をおごってくれるのだろう。
喫茶店に着くと、彼女はアメリカンコーヒーとショートケーキを頼む。僕は注文を考えるのに時間がかかって迷惑になるのを恐れて、彼女と同じものを頼んだ。
「沢木さんって、何部ですか?」
彼女は真剣な眼差しで、僕を見てくる。僕は彼女の食べかけのケーキを見ながら答える。
「えっと、え、演劇部です」
「何人いますか?」
「僕1人、です」
「1人かぁ。いいな」
彼女は遠い目をして、何かを思い出している。
「あ、あのぉ、ぼ、僕ら同学年だから、け、敬語使わなくても、大丈夫、だと」
「あっ、ごめんね。だってほら、命の恩人に対してタメ口って、何か悪い気がしたのよ」
彼女は嬉しくてたまらない風に笑う。こんな明るい彼女が、どうして自殺を思い立ったのかが気になって、聞いてはいけないと思うけど、聞いてしまう。
「さっきは、な、何で、自殺しようと、したんですか?」
彼女の顔がさっと曇る。地雷を踏んでしまったか。
(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます