第4話

 放課後、正門には飯野さんが先にいた。彼女は嬉しそうな表情で、僕を見てくる。とても、さっきまで自殺しかけた人だとは思えない。


「近くに、ケーキが美味しい喫茶店があるんです。そこで、お礼をしたいんですが、いいですか?」


 彼女に強引に押し切られる形で、僕はうなずく。彼女が代金をおごってくれるのだろう。


 喫茶店に着くと、彼女はアメリカンコーヒーとショートケーキを頼む。僕は注文を考えるのに時間がかかって迷惑になるのを恐れて、彼女と同じものを頼んだ。


「沢木さんって、何部ですか?」


 彼女は真剣な眼差しで、僕を見てくる。僕は彼女の食べかけのケーキを見ながら答える。


「えっと、え、演劇部です」

「何人いますか?」

「僕1人、です」

「1人かぁ。いいな」


 彼女は遠い目をして、何かを思い出している。


「あ、あのぉ、ぼ、僕ら同学年だから、け、敬語使わなくても、大丈夫、だと」

「あっ、ごめんね。だってほら、命の恩人に対してタメ口って、何か悪い気がしたのよ」


 彼女は嬉しくてたまらない風に笑う。こんな明るい彼女が、どうして自殺を思い立ったのかが気になって、聞いてはいけないと思うけど、聞いてしまう。


「さっきは、な、何で、自殺しようと、したんですか?」


 彼女の顔がさっと曇る。地雷を踏んでしまったか。

(続く)

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