第3話
終礼前に、僕は教室で、『リア王』を読んでいた。僕は演劇部なので、高二になるまでに、シェイクスピアの戯曲を読破しようと考えている。だが、演劇部は僕1人で、セリフがどもるので、秋の学園祭はパントマイムにすることになっていた。
だから、過去の演劇の名作を読んでも、何の意味もない。それでも、他人と喋りたくないオーラを出すために、わざと内にこもる読書をしていた。
「沢木、沢木! 女の子が呼んでるぞ」
僕は現実世界に戻されて、席を立ち上がる。僕がだるそうに呼び主の男を見たら、彼の横に例の包帯ぐるぐる少女が立っていた。
「はじめまして、一年B組の
飯野さんは、丁寧に頭を下げる。僕は「どういたしまして」と言い返しそうになったが、それは何か軽い感じがするので、言えなかった。第一、自殺から救った少女にお礼される状況を味わったことがないから、どう言えばいいか分からない。
戸惑う僕を見て、彼女ははきはきとした声でこう言ってくる。
「放課後、空いてますか? お礼がしたいんで」
「べ、別に、い、いいけど」
「ありがとうございます。じゃあ、放課後、正門前で待っています」
彼女はこう言うと、すぐに立ち去ってしまう。残された僕は、体中が火照って炎上しそうな気がしてきた。
(続く)
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