第34話 護国の地神
一方その頃。
屋敷に正面から突入した地祇尊は、重い息を吐いた。
というのも敵の数が多く、『
力量に歴然の差があったとしても、剥き出しの感情を振るわれれば多少なり堪えるのが人間の性。
とはいえ、だ。
「粗方片付いた……か」
畳が敷き詰められた広間には、土色の卵のようなものが乱立している。
それは尊が異能で作り出した即席の檻。
『
しかし『
ミサイルすら余裕で耐え抜く強度を誇る石で作られた殻が包むのは、暴走した敵の構成員。
窒息死しないよう空気孔がてっぺんに空いている。
そこから響く叫び声を聞きながら尊は腕を組んで思考に耽る。
個性豊かな『異特』の面々を従える『
地の理を統べる尊の異能。
敬意と畏怖によってつけられた異名は『
じっくり数秒の思考を経て、
「……さて、こちらはもう良いか。佐藤賢一を探そう」
こうも広いと
いつかは見つかるだろうが、いつになるかはわからない。
他の人員が接触したり予期せぬ手段で逃亡される可能性もある。
長い廊下、茶の間、広間などなどを通り抜け、ついでに石の卵が増えたりして。
『異特』の面々と遭遇しなかったのは、時計回りに屋敷を回るよう事前に打ち合わせしていたから。
捜索を開始してから約五分後。
『こちら京介。『白虎』と遭遇しました。戦闘行動に移ります』
『了解。手が足りなければ素通りさせても構わん。それは包囲している警察に任せればいい』
『わかりました。では』
京介とインカムでの連絡が切れる。
さて、自分も早く見つけなければと考えた矢先、
「——おや。久しぶりだね、地祇尊」
「ッ!?」
突如として背後からかかった声。
尊をして全く気配を感じず、振り返った先には白衣を纏った男が佇んでいる。
「日本が誇る『
「貴様が言えた口ではないだろう。京介と妹君の未来を奪おうとしたのは、ほかでもない貴様だ」
憎み言の応酬。
かつて賢一を逮捕したのは尊だったため、二人の間には少なくない確執がある。
加えて親を失った京介と美桜を保護し、しばらく面倒をみたのも尊だった。
「俺はお前を親とは認めない」
「認められずとも親は親さ。血の繋がりが証明してくれる」
「……そこまで理解していて自分の子供を人体実験に使うなど狂っている。探究心に憑りつかれた亡霊……貴様には冷たい牢屋がお似合いだ」
尊は珍しく強い口調で吐き捨てた。
『
犠牲になった人は数知れず、年間の行方不明者にも被害者がいると目されている。
狂気へ堕ちた研究者……それが佐藤賢一という人物だった。
「研究は僕の生きがいさ。人間は面白い生き物だよ? 解剖して脳をいじらないなんて損だ」
「だからって人を実験に使っていいはずがないだろう」
「叶うなら僕は自分の頭を改造していたよ? 当然じゃないか。まあ、薬やらなんやらは使ったけどね」
はは、と笑って賢一は答えた。
狂人に構うだけ無駄だと尊が舌を打ち、構える。
自分がするべきは『狂賢』佐藤賢一の確保。
特筆するべきはその頭脳だが、異能はない。
であれば作業と変わらないはずなのに、嫌な予感が拭えなかった。
(……この余裕はなんだ? 隠し玉でもあるのか、あるいは)
尊の推測は止まらない。
長年の経験で得た勘が、こいつは自分を脅かす存在だと訴えていた。
『
そんなこと賢一は当然知っているだろう。
なら、わざわざ最高戦力に等しい尊の前に姿を現したのか。
何かしらの勝算があってのことだろう。
「来ないのか? なら、僕からいこう」
にやけ顔で宣言し、賢一は両手を白衣のポケットへ入れる。
尊は賢一を注視したまま備え―—身の毛もよだつ悪寒に従って咄嗟に後ろへ跳躍した。
数舜遅れて尊がいた胸元くらいの位置からカランッと軽い音をたてて手術用のメスが床へ転がる。
「ほう。流石にいい勘をしている。初見ならまず殺せるのだがな」
「今のは……
「そういうことだ。便利な道具さ、これは。体内に直接異物が入り込めば『
レベルに比例して肉体強度も向上するとはいえ、体内は別だ。
厳密にいえば普通の人間より丈夫ではあるものの人体構造が変わるわけではない。
心臓などの急所は弱点として機能する。
「僕が望むのは『
「やはりお前は見過ごせない。俺が責任をもって止めよう。これでも国を守る『
両足を前後に開き、左拳を前に出して構えをとる。
それは紛れもなく戦う意思の現れ。
「——地の怒り、思い知れ」
護国の地神、ここに降り立つ。
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