第32話『あたしの好奇心』


まりあ戦記・032

『あたしの好奇心』     





 六日目だけど、まだ慣れない。


 特任少尉になったことじゃない、少尉待遇というだけで軍務があるわけじゃないし、覚悟していた訓練も無い。

 年末年始は、ベースのあちこちを探検したので退屈もしなかったし、ストレスも無かった。

 ベース住まいになったことでもない。あたしは、子どものころから逆境には慣れている。早くから親のいない生活だったし、お兄ちゃんも死んじゃったし、三年前には、とうぶんボッチの生活だろうとすんなり覚悟できていた。

 なんていうんだろ、家族の都合で「一週間一人暮らしよ」と言われたような感じ。少し心細いけど、一週間たてば、みんな帰ってくるという安心、それまでは好き放題やってられる、そんな感じ。

 人生いつまでもボッチじゃないと思っている。大人になってしまえば、嫌でも人とのしがらみが出来て、煩わしいくらいボッチじゃなくなる。二十歳を過ぎたら、そんな状況になるだろうと思う。それまでの数年間は、家族がいない一週間と同じくらいのスパンだ。言い換えれば、あたしの日常は、それくらい忙しい。さっきも言ったけど、自分の外のものに拘束されてじゃなくて、自分の好奇心に振り回されて忙しいって言えば分かってもらえるかしら?

 ベースを探検して面白いことはいろいろあったんだけど、下手に語りだすと際限がないことが分かっているので、語りません。


 う~~~ん。


 でもね、二つだけ言うよ。

 ベースにいたら、何十回何百回も見るやつ。


 なんで敬礼ってするんだろ?


 普段の生活じゃ、朝出会った時に「お早う」って言うよね。そのあと、同じ人に出会ったら、ニコッと笑って目礼したり、ちょっと目の端で「また会ったね」ぐらいのシグナル。それが軍隊じゃ出会うたんびに敬礼。あたしも少尉待遇なんで、下士官や兵隊さんには敬礼される。見よう見まねで敬礼を返すんだけど、サマになってないようで、三日ほどは階級に関係なく笑われてしまった。

 で、慣れたころに疑問が湧いてきた。なんで敬礼なんだろ? 肩の上まで手を上げるって、運動量の面からいうと過剰だ。胸のあたりに留めておけばラクチンだと思うんだけどね。昔流行った「宇宙戦艦ヤマト」とか「進撃の巨人」とかじゃ胸のあたりで済ましてるよ。

「そんなもん、昔からだわよ」

 みなみ大尉に聞くと、めんどくさそうな中身のない返事しか返ってこない。

「こんど時間のある時に」

 徳川曹長に聞くと、この返事。

 マリア……えと、テレジアに聞けば分かるんだろうけど(あの子のCPUはベースのマザーとリンクしてるので、なんでも知ってる)あの子に聞くのは業腹だ。


 とまあ、敬礼一つとってもこれだから、もう語らない。


 え、慣れないって話だったわよね?


 そー慣れないの! このキモオタ部屋!


 ベッドに腰かけて正面を向いただけで百個ほどのフィギュア! 魔女っ子ペルルやラブ戦士クーデル、古いのじゃスーパーそにこにラブライブ、TOHEART、ほかに名前も分からないのがいろいろ。フィギュアたちの後ろにはタペストリーやポスターがぶら下がり、隙間には理解不能のグッズが詰め込まれている。

「技研の平賀主任の方針でカスタマイズされてるんで、なにか意味があるんだと思うよ」

 徳川曹長は、そう言うけど、あたしはキッパリ言ってやった。

「こんなのに意味なんてないわ、平賀っていう人の度を越した悪趣味よ!」


 ブーーーーーーーーーー! ブーーーーーーーーーー!


 そこに、もう来ないんじゃないかと思っていた、あたし専用の非常呼集がかかった。

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