第33話『ウズメの出撃初め』
まりあ戦記・033
『ウズメの出撃初め』
あたし専用の非常呼集とは言え、みんな無関心すぎる。
こんなにアラームと、あたしの官姓名を連呼しているんだ、立ち止まったり、モニターに注目したりがあってもいいと思う。
通路で出会う隊員たちは、みんな日常勤務の顔をしているし、持ち場に急ぐ姿も見られない。
徳川曹長だけが――大変だね――というような顔をしていたけど、やはり、これから戦闘配置という緊張感ではない。
「この非常呼集は、まりあとスタッフにしか聞こえない」
ハンガーで待っていたお父さん……司令は、ついでのように言った。
「え、こんなにけたたましいのに?」
「おまえの腕に埋め込まれたチップが、直接おまえの脳に働きかけて、アラームや非常呼集を感じさせるんだ」
「え、そうなの?」
「レギュラーなアラームを鳴らすと、それだけでヨミに感知されてしまうんだ。ベースから出撃するまでは知られないにこしたことはないからな。それと……」
司令は、あたしの早足に付き合いながら、新しいシステムのあれこれを説明してくれて、いつのまにかウズメのハンガーまで来てしまった。
「あの、この先はコネクトスーツの装着室なんだけど」
「分かってる」
「あの、えと……」
コネクトスーツを装着するためには、いったん素っ裸になる。体育の授業のように肌を見せないように着替えるのとは違うんだ。
「コネクトスーツのモデルチェンジをやったんだ、装着するところから見ないと良し悪しが分からん」
司令は控えのブースで腕組みをした。
装着エリアは透明な電話ボックスのような形をしていて、外からは丸見えなのだ。司令は職業的な無表情だけど、やっぱ恥ずかしい。
えい。
五秒で素っ裸になり、身体をニュートラルにしていると、三か所からマジックハンドが出てきてコネクトスーツを着せてくれる。
最後に胸のボタンを押すと、スーツの中に籠っている空気が強制排出されて、スーツが肌に密着する。
今度のは、前のよりもきつい感じがするけど、密着感がハンパじゃなく、もう一枚皮膚が増えたような気がする。
「女らしい体つきにになったなあ」
「あ、あのね……(#´o`#)」
司令の一言に文句を言おうとしたら、シュパっと音がしてウズメのコクピットにリリースされる。
グゴゴゴゴ……
ウズメが出撃のために射出姿勢をとる。ニュートラルからはわずかな姿勢変更で、最初のころは感じなかったが、跳躍する寸前のタメの姿勢に自分自身も投資が漲ってくるのが分かる。
この感じ……好きかも。
シュパーーーーーーーーーン!!
リリースの五秒後に電磁カタパルトで射出されると、あたしと一体化したウズメは、たちまち高度10000に達した。
見える前に感じた。
今年最初のヨミは七体。数は多いけど最初に出遭ったタイプと同じだ。
これならウズメの固有武器であるパルスガで片づけられる。ただ、相手が多いので囲まれてはやっかいだ。
あたしは、ヨミたちの前を掠めるように加速し、ヨミたちが一体ずつバラけるようにした。
――パルスガ攻撃は最終手段だ。カルデラの周囲に格納されている携帯ウェポンを使うんだ――
「それじゃ時間が掛かる、下手をすれば市街地に被害が出る」
――出ても構わん、言われた通りにしろ――
「ラ、ラジャー」
箱根のことを思い出した。システムの組み換えをやって、直接ヨミの始原体を攻撃し、高い成果を出したが、携帯ウェポンを一切使わなかったので、当局からクレームが付いて、以後実施できていない。
特務師団はヨミのせん滅が任務だが、軍事産業のレーゾンデートルを否定するわけにはいかない。
非効率的だけども携帯ウェポンを使わざるを得ないのか……。
反転急降下すると、カルデラ外のB点を目指す。ウズメ用のレールガンを取り出す。
装着に二秒のタイムラグ、ヨミ二体がウズメを射程に入れ、パルス弾を発射した。
避ける以外に手はない。
しかし、避けてしまうと、射線の向こうに首都大学のカルデラキャンパスがある。
考える前にパルスガを発射。
「あれ、ただのパルス弾だ」
パルスガに比べると二段階威力の弱いパルス弾は、軸線上のパルス弾を無効化したが、一発がカルデラキャンパスに着弾してしまった。
「どうしてパルスガにならないの!」
レールガンは八発しか発射できない。バッテリーがもたないのだ。
八発では、ヨミ一体の装甲を撃ち抜くことしかできない。それも全弾命中してのことだ。
ヨミは装甲が厚すぎるせいか小回りがきかない。
それを利用して何度も捻りこみをかけ、少しずつ攻撃し、ヨミの装甲を一体ずつ削り、時間を稼いでは、C点からP点までの携帯ウェポンをとっかえひっかえ使い、四十五分後に六体のヨミを撃破。一体は逃走した。
――ご苦労、帰還せよ――
司令の声がして、ウズメをターンさせると、あたしは息を呑んだ。
「これって……」
カルデラの内外に五本の煙が立ち上っていたのだった。
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