第31話『今日からは特任隊員』
まりあ戦記・031
『今日からは特任隊員』
どこで間違えてしまったんだろう?
百のパーツを組み直したマリアの骨格は二センチほど高くなってしまった。
ベースのスタッフは「自分たちでやるからいいですよ」と言ってくれたが、自分の代わりに犠牲になったマリアを人任せにするのは忍びなく、まりあはマニュアルに沿って、丸三日かけて復元した。
で、マリアは背が高くなってしまったのだ。
「ま、いいわよ。伸びた分は腰から下だし」
鏡に姿を映し、ポーズをとりながらまりあが答える。
「徳川曹長、そんなマジマジ見ないでくれる。あたし、チョ-裸なんだけど」
「スケルトンの状態で言われてもねえ」
マリアは、長時間高熱で焼かれたためにムーブメントとPC以外は焼け落ちて骸骨同然になってしまっている。
「オホホ(ケタケタ)、これで肉を付けたらナイスボディーになるかもね」
スケルトンの状態で笑うと、骨同士がぶつかってケタケタという音が混じる。
「パーツが熱膨張したのかもしれない……ま、あとは肉付けだ、マリア、第三ラボに行くぞ」
「ハイハイ~、よっと!……あら?」
調子に乗ってステップを踏むと頭蓋骨が落ちてしまった。
「頭は拾ってやるから、急げよ」
マリアを見送ると、まりあは荷解きを始めた。
「自分で詰めてないから、なにがなんだか分からないよ……」
二つ目の段ボールでまりあは音を上げる。それでも俺の過去帳だけは仏壇の所定の位置に収めてくれた。
「あれ、マッチが無い……」
線香を立てようとしたまりあの手が止まる。
「ベースの中じゃ火は使えないから」
ちょうど部屋に入って来たみなみ大尉が注意する。
「わ、びっくりした!」
「片付け手伝ってあげたいけど、忙しくてね。ちょっと腕を出して」
「え、なに?」
「いいから」
大尉は、マリアの腕を掴み、二の腕までシャツをめくって、スタンプのようなものを勢いよく叩きつけた。
「痛い! なにすんのよ!?」
「まりあもベース住まい。今日からは特務旅団の特任隊員、いちおう階級は少尉だから、士官用の施設は全部使える。あとは、こうやって揉んどこう……」
「い、痛いってば」
「認識チップ埋め込んだから、ちょっとの間ベッドで横になっていて。じゃ、21時には戻ってくるわ」
それだけ言うと、大尉は足早に行ってしまった。
「あ……眠くなってきた……」
チップの埋め込みには微妙な麻酔がかかっているようで、まりあはベッドでまどろみ始めた。
三時間ほど眠ったまりあは、ベッド脇に立つ人の気配で目が覚めた。
「いつまで寝てんの!」
肉付けの終わったマリアが、偉そうに腕を組んで立っている。
「……あ……え? まりあ?」
「こうやって見ると、まりあってブスよね」
いきなり失礼なことを言う。
「マリア、微妙に変わっちゃった?」
微妙ではなく、かなりの美形に変わったマリアは、こう言った。
「マリアの影武者は卒業したの、今日からはガイノイド戦士テレジアよ。よろしくね」
「テレジア?」
「そーよ、ガイノイドってのは機密。書類上はまりあの姉ってことになってる。グレードは上がったけど、まりあと相似形だからね。一個年上の美人お姉さんということになってる。ダミーの姉妹関係は、そこのパソコンにインストールされてるから学習しといてね。あ、一応ガードは継続するから安心して、それじゃ、あたしの部屋は隣だから、入る時はノックしてね(^^♪」
マリア……いや、テレジアは鼻歌まじりで隣の部屋に行ってしまった。
「あ、あーーーー!?」
眠っている間に部屋は片づけられていた。
仏壇こそはそのままだったが、それ以外は、なんというか……。
まるでキモオタの部屋じゃんよ!
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