第30話『ずらかるわよ!』
まりあ戦記・030
『ずらかるわよ!』
どこ触ってんのよ!?
思ったけど声に出せなかった。
まりあは、大きなクマさんのぬいぐるみの中に入って、運送屋に化けた兵士の肩に担がれている。
「まりあ、ずらかるわよ!」
朝帰りのみなみ大尉に言われたのは、ついさっきだ。大尉に続いて運送屋に化けた兵士が五人入って来た。一人は徳川曹長だ、曹長は部下にテキパキ指示をすると熊の大きなぬいぐるみをひっくり返し、ジッパーを開けると、こう言った。
「安倍まりあは死んだことになったので、これに入れて運ぶよ」
「え、なに? どゆこと?」
曹長はニッコリ笑って、まりあにぬいぐるみを被せると、部下に指示して担がせたのだ。
「どうも、お世話になりました」
大尉は、お隣りさんには声を掛けておいた。
「あら、急なお引越しなのね!」
「はい、急な異動で」
「大変ね軍隊は……あ、まりあちゃんは?」
「あの子は……一足先に、すみません、ご挨拶もさせないで」
大尉は顔を伏せながら言いよどんでおいた。
おや? お隣りさんは不審に思ったが、大尉の目が潤んでいるので聞いてはいけないと思った。
そして朝刊を見てビックリした。
――第二首都高校女生徒焼死!――
「ま、まりあちゃん!?」
お隣りさんは、まりあが『焚火の火が燃え移って焼死』したのだと信じた。
怒れる群衆によってリンチにされ、そのあげく焼き殺されたということは完全に伏せられた。
大掃除で出たゴミを校庭の隅で焼却中に、誤って混入していた古い花火に引火し、まりあの制服に燃え移ったとされた。
まりあは火だるまになりながら、フェンスを突き破り崖下に落下。崖下の林は半日燃え上がり、まりあの遺体は発見に至っていないと続いていた。
ウワーーー!!
荷解きしていたまりあは、チョービックリした。
ベース特有の無機質な音がしてドアが開いた時は、みなみ大尉か徳川曹長かと思った。
焦げた臭いに顔を上げると、そこには焼けただれたゾンビが立っていた。
「ちょっと失礼ね!」
文句を言うと、ゾンビはブルブルと振動し、炭のような焼け焦げを振るい落した。
「ウワー、寄るな触るな!」
「邪険にしないでよ、まりあの身代わりになってきたんだからさーー」
ゾンビは、ほとんど焼け焦げの骸骨のようになり、そこだけ真っ白な歯をカタカタいわせた。
「え……マリア?」
「あったりー!」
ウワーーーーー!!
それだけ言うと、電池が切れたようにグッタリし、百以上のパーツに解けてまりあに覆いかぶさてきた。
あまりの臭さと驚きで、まりあは泡を吹いて気絶してしまった。
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