第29話『火柱まりあ!』


まりあ戦記・029

『火柱まりあ!』   






 玄関前に集まっていたのは街の人たちだった。


 三百人近く居るだろうか、それも、しだいに増えつつある。

――思ったより早く集まってる、まりあと入れ替わっていて正解だった――

 学校の玄関は吹き抜けになっているので、二階から階段を下りながら玄関の様子が観察できる。


「あ、安倍さん」


 担任のエッチャン先生が小さく呟いたのを校長も街の人たちも見逃さなかった。ざわめきが収まり、三百人分の視線が集まる。

「あなたが安倍まりあね!」

「ウズメのパイロットだな!」

 年かさの二人がまりあを指さすと、まりあを取り囲むように三百人が動いた。

「ここは手狭です、表に出てください」

 そう言いながら、まりあ(マリア)は歩を緩めずに校舎の外に出る。

――立ち止まったら終わりだ――

 そう思って、まりあはグラウンドを目指した。

 グラウンドに出ると、友子やカノンたちが校舎の窓から心配げに見ているのが分かった。


「この人たちは、ウズメのことで話があるとおっしゃっている、質問にお答えしたら早く下校しなさい」


 校長の言葉はアリバイだ、もう四百人になろうかという群衆は、大人しくまりあを帰しそうになんかない。

「ヨミが攻めてくることは、もうない!」

「ここ三か月は何もない!」

「ウズメは税金の無駄遣いだ!」

「ウズメみたいなものを保有していたら、それが原因で、いつかヨミの攻撃が始まる!」

「あなたを二度とウズメには乗せない!」

「ウズメに乗るな!」

「「「「「「乗せるなーーーーー!」」」」」」

 群衆が、一斉に拳を上げた。


――予想していたより激しい――


 そう判断したまりあは、両手をメガホンにした。

「みなさんは間違っています! ヨミの攻撃は続きます! ヨミが攻撃してくる原因や理由は分かりません、分かりませんが、現に攻撃があることを無視はできません。ヨミの攻撃が1パーセントでも予想される限り、わたしは、ウズメに搭乗することを止めません!」

 こんなことをシャウトすれば火に油なのは百も承知、むしろ焚きつけている。

「話して分からないようなら、乗れないようにするしかない!」

「なにを言われても、わたしは乗る! 乗ります!」

「乗せるか!」

 最前列のオッサン数人が跳びかかって来た。

「来ないで!」

 地面を転がって二人のオッサンをいなし、起き上がるついでに、もう一人に足払い、起き上がると被さってきた奴の顔に頭突き、オッサンは顔を血で染めてひっくり返った。

 数メートル走った! 通せんぼしている四人にフェイントをかまし、できた隙間を駆け抜ける!



 殺気を感じた。


 視野の端に拳銃を構えた男! 斜めにジャンプ! 同時に銃声! 前に居た女子大生風の額に穴が開き、糸の切れたマリオネットのように崩れる!

 二度目の銃声! レポーター風の女の首筋に当たり、穴の開いた水道管のように血が噴き出る!

「させるか!」

 怒鳴り声といっしょにガソリンが降って来た。ヤバイ! 思うと同時に目の前が赤くなった、誰かが火をつけたのだ!

「殺してしまえ!」

 だれかが叫ぶと、石ころ、金属バット、トンボ、野球のボール、槍投げの槍、グラウンドにあるあらゆるものが飛んできた!


――ここで燃え尽きるわけにはいかない――


 燃える制服を脱ぎながら駆け、校舎裏に逃げる!

 跳び込んだ校舎裏に数人の人影、手にホースのようなもの!?

 思った瞬間には、爆発するような炎に包まれた! 火炎放射器だ!

 瞬間、まりあは火柱になった!


 ギャーーーー!!


 渾身の叫び声をあげ、まりあはフェンスにぶつかる!

 フェンスにほころびがあったのか、まりあの必死の力か、まりあはフェンスを突き抜け、崖下の林に転げ落ちた!


 ここのところ続いた異常乾燥で、瞬くうちに林は火に包まれ、消防自動車が到着してなを、まりあを呑み込んだ林は日の暮れるまで燃えていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る