イブの緑地化計画ー異世界転生してまですることが穴掘り!?ー

アイマスク

第1話アダムとイブ

彼女は泣いていた。

いや、幼女は泣いていたという方が正しいのだろうか。

聞こえる声だけで判断するなら転んだというとこだろう。


「うわぁぁぁん、えーん」


頭に響く。

この狭い空間にまで入り込んできて反響をし威力が増している。


「……しょうがないな」


助けようと思い行動に移ろうとしたその時、頭の上に何かが落ちてきた。

嫌な予感がする。

恐る恐る頭の上に手を伸ばすと予感は的中していた。

虫だ。バッタだ。

俺はすぐさま手で払いのけて逃げるように梯子を登り地上を目指した。

地上に出ると広い草原の中で1人の幼女が泣いていた。

穴からでてきた俺に気づいたのか目が合いさらに泣いてしまった。


「痛いよー、転んじゃったの」


幼女の横に落ちている虫取り網に気づき俺は聞いた。


「なんで転んだんだ?」


「あのねー、バッタさん捕まえようとしてたのー」


「お前が原因かよ!!」


なんの事か分からない不思議そうな顔を幼女は浮かべていた。


あぁ、なんで俺は知らない地で地面を掘っているんだろう……。

流行りの異世界転生って使命与えられて魔法使えたり無双したり華やかなイメージだったのに。

なんで俺に与えられた使命は穴掘りなんだ……。


「ミノルー、バッタさんどこいったか知らない?」


この少女はイブというらしい。

この世界で俺が目撃した唯一の人間だ。


「穴の中にいるよ。早く回収してきなさい。」


「やったー、バッタさーん。」


「気をつけて梯子降りるんだぞ。」


俺は蛇島 実(へびしま みのる)本来の世界なら大学生だった。

本来の世界ならだ。

ここが異世界かどうか分からないが今のところこの世界に幼女1人ということは異世界なのだろう。

なぜこんな異世界に来たかというと。


〜回想〜

とある日の飲み会

「乾杯ー」「「「かんぱーい」」」

「「「うぇーい」」」

「「「うぇーい」」」

「「「うぇーい」」」

「2軒目行く人ー」

「俺酔いすぎたからもうここで寝るわ」

「おい、そこゴミ捨て場だぞー」

「おやすみー」

「「うぇーい」」

〜回想終了〜


はい、ゴミ捨て場で寝てたのが俺です。

ってこんなクソみたいな回想聞いた事ねーよ。

内容ゼロじゃねーか。

こんな記憶が最後で異世界とか納得出来るわけないわ。

ゴミ捨て場で寝たところは確かに覚えている。

そして目覚めたら草原が広がる世界で俺は1人寝ていた。

目覚め1番最初に目に入ったのはとても大きな樹が1本だけ生えていた。

不気味なほど不自然に自然が作られているようだった。

その樹を眺めていたその時後ろから声がした。


「お兄ちゃん目覚めたか?」


「えっと、君は誰?」


「うちはイブっていうんだー」


「そ、そっか。俺は蛇島実です」


「ミノルはどうしてこんなとこで寝てたの?」


「分からないんだ。ここはどこなの?」


「ここはここだよー?」


「質問が悪かったね。ここは日本かい?」


「日本?何それおいしーの?」


(日本知らないってマジか……。これって異世界転生か?)


「変なこと聞いてごめんね。大人達は近くにいる?」


「ここにはイブ1人だけだぞー。前の人は死んじゃった……」


(死んだって言った!?怖っ!?それに前の人ってどういうことだ……。)


「前の人が死んじゃうとミノルみたいにここら辺で寝っ転がってるんだー」


「え、じゃあ、何人か俺みたいな人が来たの?」


「確かねー、えっーとねー」


イブは記憶を遡りながら指で数えてゆく。


「多分12人目だよ」


(意外と多くの人間がこの世界に来てるんだな)


「でねー、こうやって新しい人が来ると知らない物が必ずあるんだけど、これってミノルの?」


イブの手の上には幼女には似合わない煙草の箱とライターが乗っていた。


「あ、俺が吸っていた銘柄だ」


そうだ、税金が上がって高くなるから最後の一箱と買った記憶があった。


(もしかして元の世界で大切にしてたものを持ってける的なアレか?もっと役に立つものにすればよかった……)


「やっぱミノルのかー良かった良かった」


「ありがとね」


そういって残り本数の少ない煙草とライターをポケットにしまった。


「それでなー、一緒にこれも落ちてたぞ」


先程の煙草もそうだったが、さらに幼女には似つかわしく無いものが目の前に出された。


スコップとツルハシだった。


「え、ごめんね。何これ?」


「これはなー穴を掘る道具なんだよー知らないのかー?」


「うん、それは知ってる。なぜその穴を掘る道具を俺に?」


「ここに来た人はな穴掘らないといけないらしいんだ」


「え、強制!?」


イブはあの不自然の1本の樹を見つめながら言った。


「掘らないって言った人はあの樹に殺されちゃうの……」


「は……?」


「前の人はそれで殺されちゃってミノルが来たんだ」


(え、それ強制じゃん。穴掘りって何!?小学生の時以来穴掘ったことなんてねーよ)


「ちなみにどのくらい掘ればいいの?」


「とっても深く!!」


「やらさせていただきます……」(殺されるって拒否権ないし掘るしかないのか)


「ミノルありがとー」


初対面からいきなりぶっ飛んだ内容だった。

それから1週間経ったが俺は今も穴を掘り続けている。

大体4mほど掘り続けたが終わるは見えない。

そして俺が穴を掘り続けている中イブは地上で虫を追いかけ回したり只々草原を走り回っては転んで泣いている。

幼女といった感じの一日を過ごしている。


そのイブについて気づいたことが3点ある。


1つ目は、何故か食事はいつも林檎だ。

その林檎をイブは食べない。

毎日俺の分だけ用意されている。


2つ目は、時間によって見た目の年齢が変わる。

身体的にも精神的にも変わっているような気がする。

ただ俺の前ではなく1人の時に変化する。

夜になると成長した大人のような見た目のイブを見かけたことがある。


3つ目は、大きな樹と会話しているような気がする。

2つ目の大人の姿の時に樹に向かって話しかけている。

夜なので見かけるととても怖い。


イブは何者なのだろうか。

そして俺が異世界に来たことと関係しているのだろうか。

子どもの姿のイブに聞いても何も分からないので今日の夜に大人の姿のイブに話しかけてみようと思う。

そう決意して今は穴を掘ることに集中しようと思った。


「バッタさん捕まえたー可愛いー」


「頼むから俺に近づけないでくれな」





日中穴を掘り続けた。

もう体力なんて残ってない。

深い眠りについて明日の穴掘りのために体力を回復させねば。

と思って寝ようとしたがするべきことを思い出した。


「習慣って怖いな…。穴掘ることしか考えてなかった」


するべきことというのはイブに、大人の姿のイブに直接話しを聞こうとしていたのだ。

全て知るのが少し怖いが、全て知れるかも分からないので気楽に行こうと思った。


「今日は月が綺麗だな」


イブを探している最中空を見上げると満月が見えふと素直な感想が漏れた。

暫く月に目を奪われていると月明かりに照らされ輝いている女性に気づいた。

大人の姿のイブだということに気づくまで数秒かかった。

この世界には俺とイブしか見てないのだが、それを忘れるくらいに彼女が綺麗だったのだ。

覚悟を決め話しかけようとしたその時


「そろそろ来られる頃だと思いました」


「気づいてたことに気づいていたのか?」


「この世界に貴方と私しかいないんですもの。隠す方が難しいと思っていましたよ」


「そりゃそうだ」


「聞きたいことがあるんだが」


「えぇ、そのために私はいますので」


「まずお前はイブでいいのか?」


「はい、私はイブと同一人物ですよ。あの子は私で私はあの子です」


「そしてあの子は純粋なので何も知らされていませんが、私は一応大人となりますので知識を持っています」


「お互いがお互いの考え方を持っているのか」


「その捉え方でかまいません。根本的なとこは同じですが」


「まぁ、いいや。じゃあ次にここはどこなんだ」


「地球で間違いありませんよ。あなた方が知っている地球とは違う地球です」


「てっきり異世界転生のようなものだと思ってたが違うのか?」


「難しく考えなくていいんですよ。間違ってないので異世界転生だと思ってください」


「了解です。次はあの樹についてだ」


「あの樹はこの星そのものです。この星の支配者と言っても過言ではないでしょう」


「そんな強大なものだったのか」


俺は正直半分も理解出来ていなかったので残り少なくなった煙草を咥え火をつけた。

ゆっくりと煙を吐き出し夜空に白い煙が揺らめいた。

俺が理解してないのに気づいたのだろう彼女が煙草に逃げた俺に苦笑いを浮かべ話しかけてきた。


「他に聞きたいことはありますか?」


「いや、一気に聞いても頭がパンクしちゃうからとりあえずこんなもんで」

(既にパンクしてるのは認めないでいたい)


「それでしたら私から聞きたいことが1つ」


「え、好きなタイプとか?」


「このタイミングで聞くと思いますか?」


少し彼女の声色が冷たく感じたのでふざけ過ぎただろうか。


「わ、悪かったよ」


「でも少し似た内容かもしれませんね」


「もし貴方の最愛の人が危機に陥ったらどうなされますか?」


「最愛の人か…。彼女欲しい人生だったなー」


「ふふっ、想像でも構いませんよ。家族でも構いませんし」


彼女は笑った。幼女の時とは違った大人の笑顔で。


「でも、もし最愛の人に何かあったとしたら俺は俺でいられなくなりそうだな」


「……」


彼女は何も言わずに見つめてきた。

続けろということだろう。


「そして自分を取り戻すためなら手段なんて選ばないだろうな」

「もちろん最愛の人のためと理由をつけて」


彼女は少し考えていたのか間が空いた。


「そうですか。聞けてよかったです」


「なんでこんな質問を?」


「気にしないでください。心理テストみたいなものです」


それ以上聞くなと言われているようだった。


「それでは夜も更けてきましたし明日に備えて休みましょう」


「穴掘るのって体力使うからな」


「任せてしまってすみません」


「気にすんな。乗り掛かった船だ最後までやるよ」


ただ樹に殺されるのが怖いだけなのだがカッコをつけてみた。

彼女には全て見透かされているような気がしたが最後までカッコをつけて煙草を吸い終えて寝る場所に戻った。


「ありがとうございます。罪悪感が薄れます」


彼女が何か言った気がしたが風のせいか聞き取れなかった。




次の日、眠い中目を見開き昨日のこともありやる気を出して穴掘りを再開する。

そのやる気のおかげもあってかかなり掘り進めた。


「大分深くなってきたな」


「深ーい」


上の方でイブが見ているのだろう声が聞こえてきた。

もう少しなのか?と思いツルハシを振りかざしたところ何かに当たった。


「ん?なんだ?金銀財宝とかか?」


手で土を払う。


「根っこ?あの樹の根っこか?」


根っこをどうしようか考えていると。


……ズブリ


(なんだ、背中が熱い…いや冷たい?)

(あれ地面が近づいてくる。俺が倒れているのか?)


ドスッ

地面にぶつかったが不思議と痛みを感じなかった。

背中を気にし振り返るとイブが立っていた。

ただ、そのイブは幼女の姿ではなく10代後半の少女の姿だった。

そして手には赤い液体の付いた刃物が握られていた。


「お疲れ。よくここまで掘り進んでくれたわね」


「なんで。なんでなんだ」


「穴を掘っても掘らなくても貴方は殺されることになっていたの」


「なんでなんだよ」


「貴方も言ってたじゃない手段なんて選ばないって」「それに悪いけど理由は言えないわ」


とても冷たい目をしていた。

そして梯子に手をかけるイブが言った


「それに蛇も実も嫌いなのよね」


冷たくなっていく体。どんどんと意識は無くなっていく。

薄れゆく意識の中、俺の体に根っこが絡みついてきた。


「さようなら」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私は穴を埋め木の下へと向かった。


「ごめんね。遅くなって」


樹に向かって話しかける。

樹には人のような形が浮かび上がっている。

そう、これが私の最愛の人。


「次はもっと早く届けるからね」


「なんでガラクタばっか持たされてくるんだろ。邪魔になるだけなのに」


煙草とライターをガラクタの山に放り投げ捨てる。

そこには過去来た人間の持ってきた物だ。


「早く元に戻って欲しいな。早く次の人間来ないかな」


「次の人間は早く根に届けるね」


「愛してるよアダム」


私は樹に寄り添いそう呟いた。

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