ツナギの町 編
第1話 ばあさんへ。取引先を決めました。
「─────ここは、ダメだな。客を金蔓としか見てないのがありありと分かって、胸糞が悪くなる」
「もぅこれで3軒目ですよぅ。なんで物を売るだけなのに、こんなに巡るんですよぅ?」
よほどさっきの店が不快だったのか、未だ怒りの冷めない職人・
「何言ってんだ!。この町にいる間付き合っていかなきゃいけねぇ相手だぜ?。キッチリ見極めないで付き合い始めたら、後で大喧嘩しちまうだろうが!」
「うー…よく分からないけど、ごめんなさいですよぅ…」
納得いかないまま、勢いに押されてとりあえず女神が謝る。
「あ、この街の最後のお店がアレですよぅ。でも、今までで一番小さいですよぅ」
「店は大小が大事なんじゃねぇ。大事なのは店主さ」
そう言うと職人は、店の扉を開くと「おう、邪魔するよ」と気さくに入っていき、女神は大人しくその後に続く。
「これはこれは、いらっしゃいませ。お客様、今日は何をお探しですか?」
扉の開いた音に、慌てて奥から痩せた、人の好さそうだけど薄幸そうな男性が出てきた。
「いや買い物じゃなく、ちょっと買い取ってもらいたいものがあるんだが、ここは買取とかも大丈夫か?」
「えぇ、鍛冶や彫金系の素材ならばうちでも買い取れますよ。さすがに裁縫や料理などはご遠慮願いますけれども」
その返事を聞き、職人は鞄から一本のブロンズインゴットを取り出す。
「こいつなんだけど、お宅の店だとどれくらいで買い取ってもらえる?」
「ちょっと拝見しますね…これは美しいブロンズインゴットですね。こういう中間素材というものは業界的に不足気味なので、売っていただけるなら嬉しいですね」
そう言うと店主はカウンターから数枚の貨幣をカウンターに置く。
「ブロンズインゴットはこれだけになりますが、よろしいですか?」
店主が置いた金額に、職人は「ほう」と感心した声をあげる。
「ちなみになんだが、おたくの店では鉄鉱石も扱ってるかい?。こっちは儂が買いたいんだが」
「えぇ、ございますよ。数にもよりますが、余程の数量でもなければお売りできると思いますよ。ちなみに価格はこのようになっております」
職人は提示された金額を見て、満足そうに大きく頷いた。
「うん、いいじゃねぇか。アンタの人柄も問題なさそうだ。じゃあインゴットはあんたのとこで買い取ってもらえるか?」
「はい、大丈夫ですよ。ではお代はこちらになります…」
そう言って店主が貨幣を差し出そうとすると、職人が掌を前に出して制止する。
「いや、これはサンプルで持って来ただけなんだ。量があるので表に置いてあるんだわ」
「あ、そうなんですね。では私も運ぶのをお手伝いしましょう」
そう言うと職人の後に続いて店の扉を出ると、そこには荷物に布を掛けられたいわゆるリアカーが止まっていた。
「こんだけあんだが、大丈夫かい?」
布をめくったそこには、荷台に所狭しと広げられた上に何段も重ねられた、見た事もないくらい大量のブロンズインゴットがあった。
「え?、え??。これ、全部ですかっ!!?。いやいや、こんな量のブロンズインゴットを!!?」
目をこすり何度も確認するものの、どう見てもブロンズインゴットである。
念のために一本抜いてみるが、その下には当然ブロンズインゴットがあった。
「あの、先ほど大見えを切った手前言い難いのですが、これだけ大量となりますと現金を用意できないといいますか…」
「そっか。まぁ仕方ねぇな…持ってき過ぎたか」
難しい顔をして腕を組む職人に、店主は焦った様に言う。
「で、ですけども。3日…いえ、2日待っていただけたら、もぅ少し現金を用意しますので!」
職人が顔を上げいい笑顔をする。
「おぉ、やっぱアンタいい人だな。じゃあとりあえず今買えそうな分だけアンタの店に運ぶかね」
それから3人で店から持って来た台車を使ってピストンで運び入れ、1/3くらい減ったところで店主からギブアップ宣言が上がる。
「…そういえば、鉄鉱石と交換ってのも大丈夫か?」
「え?。ほぼインゴット1本と鉄鉱石2個が同等になりますけれど、いいんですか?。現金が入り用だったのでは?」
店主が職人の顔色を窺いながら質問をすると、職人は楽しげに笑う。
「いや、どうせ売った金で鉄鉱石買うつもりだったし、そっちのが手間が省けらな」
「そ、そうですか。でしたら店の在庫を確認してきますので、少々お待ちください」
そういって店主は小走りで奥へと行き、しばらくすると台車で鉄鉱石の入った箱を持ってくる。
結局荷台の3/5くらいは減ったものの、他はまた後日という事になった。
店主は深々と頭を下げ、職人と女神は鉄鉱石とインゴットを乗せた台車をゴロゴロと引っ張るのだった。
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