第2話 ばあさんへ。少し貯めすぎたようです。



「他のお店の方が高かったですよぅ?。おじいさん、良かったんですかよぅ?」



横で一緒にリアカーを引く女神が職人に問う。


「さっきも言った様に、金じゃなく人柄なんだよ。こっちの無茶にもなんとか対応しようと親身になってくれたし、いい店だったじゃねぇか」


「お金が欲しくて売るのに、わざわざ安いところに売るとか、おじいさんはほんと良く分からない人ですよぅ」


納得いかないのか、女神がまだブーブー言っている。


2人は建物の陰に入っていくと、そこで壁に手をかざす。


「─────開錠アンロック


壁の手をかざした辺りがキラキラ光ったかと思うと、そこに明らかに異質な引き戸が現れる。


2人は大きく開いた引き戸の中にリアカーごと入ると、後ろ手で引き戸を閉める。


そしてそこは、またただの壁に戻っていた。



「しかし、まさか車1台分も減らせんとはなぁ」


職人が引っ張ってきたリアカーに積んであるブロンズインゴットの売れ残りを見ながら苦笑いを漏らす。


「でも、2日後にはまた買ってくれるって言ってましたよぅ?」


「2日後にはまた、儂が作ったのが溜まるじゃねぇか…ちょっと溜め過ぎたかねぇ…」


職人は部屋に目を向ける。


奥の壁が見えなくなるほどに積み上げられた銅色の壁。


そう、それは全てブロンズインゴットだった。



事の起こりはこうだ。


ハジマリの村にいる頃、近いとはいえ洞窟まで行って採掘をして、持てる分だけ持って帰ってくるというのがいい加減面倒だなと職人は思っていた。


そこで、洞窟の採掘場所の横に住んでおけば、鉱石回収が楽になるんじゃないかと気付く。


早速わざわざ人が来ないだろうという奥の方の採掘場所が乱立してる場所に引き戸を作り、そこで生活をして、氷曜日には村に戻るという生活を続けていた。


もちろん午前中は工房できっちり仕事をして、昼過ぎから手近なところから採掘をしたら家に戻ってクラフト。


材料が切れたらまたクラフト、そして魔素マナが切れてきたらその日は終了というのんびりしながらも忙しい日々を過ごしていた。



この頃には既にHQの感覚を掴めていたので、安定して4つのインゴットをクラフト出来るようになってたので、恐るべき速さで在庫が溜まっていった。


村の武器屋には子供達が作った分が安定して売りに出されているはずなので、職人まで売り始めると買取を止める恐れがあったため売る事も出来なかったのだ。



それに加えて素材不足の問題もあった。


この村の付近ではいわゆる『下位素材』しか採る事が出来ずに、折角手に入れたレシピを試せないものも多数あったのだ。


加えて、下手に何かを作ろうものなら、それを部屋に置くと邪魔になるという悪循環。


仕方なく小さく積み重ねもしやすいインゴットにして、次に備えてひたすら溜める事になったのだ。



「まぁともあれ、少しずつは減っていくわけだし、これはいいだろう。さてと…」


職人は今日買ってきた鉄鉱石を見る。


ハジマリの村の洞窟でもたまに採れたので何度かクラフトしたものの、これが少し異質だったのだ。


まず普通に鉄鉱石x4でアイアンインゴットが出来る、これは普通だ。


次にHQが発生した場合だが、1個しか出来なかったのだ。



不思議に思い出来たものを手に取ると、どうもアイアンインゴットとは別物の様に見えたので、女神を呼んで確認してみる。


すると、アイアンインゴットの上位素材になるスチールインゴットが出来ていた事を告げられた。


ちなみに、HQ2もHQ3もスチールインゴットが1個出来るだけで、数が増える事はなかった。


「数が増えねぇんじゃ回数やるしかねぇんだな。面倒だねぇ…」


…まぁ、邪魔にはならんか?。


そんな風に前向きに考え、職人はシュワシュワとクラフトを開始していく。


わざわざHQ3を狙う必要がなくなったので、職人的にはかなり手抜きな感じにはなりながらも、足元にはどんどんスチールインゴットが積まれていく。


買ってきた分の1/3ほど減らしたところで疲れの予兆を感じて、職人はそこで今日の作業を終える。


そして清酒と冷蔵庫に作りおいていたちょっとしたつまみを食べつつ、職人の一日は終えていく。



次の日もいつもの様に午前中は通常作業、午後は鉄鉱石消化という流れで過ぎ、そしてまた日が明けるのだった。

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