プロローグ4

 それからまた、一年が過ぎた頃のこと。

 現在いまからほんの少し前のことだ。


「ついにこの日がやってきたよ」


 夜空の下で、義父が両手を大きく広げながら宣言した。

 教会の前の地面には土を彫るようにして巨大な魔法陣が描かれ、そのところどころには、宝石が置かれている。それぞれ形は違うが、全てが魔石と呼ばれる、色とりどりの宝石だ。


「ようやくこれだけの魔石が集められたし、境界を守護している、この街のパワースポットも破壊することが出来た。これでお前に破壊神の魂の欠片——フラグメントを降ろして、魔王にすることが出来るんだよ。さあ、魔法陣の中央に座りなさい」


 言われた通りに、魔法陣の中央に座る沙耶。

 養父には逆らうことが出来ない。

 逆らったら、背中の魔法陣を通じて、お仕置きを与えられてしまうからだ。

 そうすれば数日は動けなくなるほどの——そして涙が出るほどの激痛が全身を駆け巡り、学校にだって行けなくなってしまう。

 それは沙耶にとって、とてもつらいことだった。

 養父を除けば学校が、沙耶にとって世界との、唯一の接点のようなもの。養父から逃れて気が抜けるのも、過酷な現実から逃がれられるのも、学校しかなかった。

 この一年は、それまで以上につらい修行を課せられていたからだ。


(でもこの儀式か終わったら、わたしはわたしではなくなってしまうのかもしれない。いったい、わたしはどうなるんだろう……?)


 本当になにもわからない。

 養父ちちがなにをしたいのかも。

 その真意だって。

 復讐だとか言っているけれど、わたしにはなんのことなのかまったくわからない。

 聞いても、教えてくれることはないからだ。

 と言われるだけだ。

 なってどうなるかもわからない。

 でも、どうでもいい。

 どうにもならない。

 沙耶はいつものように自分に言い聞かせる。

 どうにだって、なればいい。


「それでは始めるとしようか。八年前は失敗したとはいえ、共に研究をして二十年。その悲願が実る時が、ようやくやってきたんだ。天国で見守っていてくれたまえ、我が同胞たちよ!」


 叫び、義父は現世と幽世の境界を揺らがせるための、沙耶に魔王を降ろすための詠唱を開始した。


 すると、魔法陣が輝き出して——

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