05 &α 夢と幻想 Ⅲ

「あ、夢と幻想の」


「いつもお世話になっています。印刷のほうは」


「順調です。仮刷、いま見てたところで」


「あ、ああ。そのままで」


「いつも、見させてもらってます。すごいですよ、どの刊も。印刷業者として、できあがりを最初に見られるのは、本当に、光栄なことです」


「ありがとうございます」


「あの。ひとつ、訊いても。いいですか?」


「どうぞどうぞ」


「この刊で。終わりということは、ありませんよね?」


「なぜです」


「いや、なんか。載ってた作品が、いつもと、違ったので」


「そう、ですね。不死鳥。涅槃の夢。もう、彼らの夢と幻想は、完成しました。もう、いいかなと、思っています」


「そんな」


「私は、夢と幻想を、見たかったんです。私。夢を見たことがなくて。そういう、現実ではない何か、幻想的なものを。見たかったんですよ」


 夕陽。


「でも、もう。ちょっと、つかれました。ここらで、終わりでもいいかなって」


「そう、ですか」


「なんで泣いてるんですか」


「おつかれさまでした。ありがとう、ございました。印刷できて。同人誌を見れて。幸せでした。僕は」


「泣かないでください。私が、自分自身のために作ったものなのですから、感謝されるいわれはありません」


「じゃあ。もうひとつ。もうひとつだけ、いいですか」


「はい。どうぞ」


「今夜。お食事でも。僕と」


「ん?」


「夢と幻想、完結記念に。美味しいワインを。ごちそうします」


「あれ」


「どうしました?」


「いえ。ごめんなさい。まさか私自身にフラグが立つと思ってなくて」


「フラグ?」


「いえいえ。こちらの話です。ぜひ。今夜」

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