03 &α 夢と幻想 Ⅰ
執務室の扉。
開く。
「かんどり」
「かさがなさん」
「すまない。連絡をしてなかったな。俺は今から、チーフの指定した人間とここで会わないといけない」
「うん。わかってる」
「だから、少し外してくれ。後で必ず」
「あとは。ない。チーフが指定した人間は、私。わたしが、あなたを変えるの。あなたは。わたしを捨てるつもりでいる」
無言。
「わたしを捨てて。夢と幻想を。また、追いかけようとしている」
沈黙。夕陽が、窓から差し込んできている。
「そうだ」
「だから。わたしも」
向かい側に座り。
書類が、1枚。
食べかけのラーメンの隣に。
「あなたの隣で。夢と幻想を追いかけさせていただきます」
「これは」
「これは。わたしの。覚悟、です。あなたと心中します」
机の上に置かれた書類。
夕日で反射して、机の材質とともに、きらきらと光る。
「あれ。この机。結晶素材だ」
「これは」
書類。
「どういうことだ。俺の気持ちは」
結婚届。すでに、書式が記入されている。片方。
「あなたの気持ちも。いたいほど。わかります。夢と幻想を、追いかけたいという気持ち。感じることができます。同じものを。あの夢と幻想を。わたしも、見たから」
夕陽。
「わたしは、あなたの隣にいます。あなたが何を見て、何を追いかけるとしても。わたしは。あなたの隣で同じものを見て。感じて。そうやって、生きます。生きていきたいです。それが、わたしにとっての、夢で。幻想です」
「俺は」
「あなたの夢と幻想は、かないません。現実に、夢と幻想は、ありません」
「それが分かっていながら」
「わたしにとっては。夢と幻想よりも、あなたが大切だった。それだけです。たしかに、あなたとわたしは違う。あなたは夢と幻想を大事に思う。そしてわたしは、あなたを大事に想う。違います」
「やっていけると、思うのか。それで。大事に思うものが違う、ふたりが」
「あなた、子供みたいですね」
「よく言われるよ。チーフにも言われたような気がする」
「大事なものは。いくつあっても。いいんです。大事なものがたくさんある。それが、生きる、という、ことです。わたしの肚は、決まってます。あなたの写真を見た、そのときから」
呼吸。大きく、息を吸って。はいて。
「結婚してください。わたしは、本気、です」
夕陽。
射し込む執務室で。
抱き合う。
「俺もだ。俺も。おまえが。大事だ」
「一緒にいます。ずっと。ずっと一緒に」
「あ」
抱き合った拍子に。
ラーメンが、結婚届にかかった。
「ああ。わたしの覚悟が。醤油味に」
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