第36話




 レンファはたとえるなら豹のようだった。俺の下で巧みにカラダを使って逃げ果せる。

 普段は従順なアリシアとばかり愛を語っている俺はちょっと翻弄されてしまった。

 だが、それがたまらなくいいわけで……


 すべて終わった明け方、ようやくレンファは俺に懐いたように胸板に頭をあずけてきた。男としては手強いダンジョンを攻略したあとのように、満足感と同時に疲労感もあった。俺もまだまだ修行が足りないらしい。


 青い髪を撫でる。先祖にセイレーンかなにかがいるのかもしれない。幻術を使える時点で、人間と魔物との混血だろう。エルフであれば、アリシアが気づいたはずだ。


「……女とは手強い生き物だな、レンファよ」

「ふふ、女をわかるにはちょっとあなたは白髪が足りないんじゃないかしら」

「白髪ね。まだジジィにはなりたくないんだがな」

「ふふ、男の人はすぐよ。でも、いつまでもたくましい。楽しみが長く続いて羨ましいわ」

「そうだな。俺はこれから先の人生は全部、楽しみに費やすつもりだよ」


 前世での人生が、あまりにもひどかったから……

 俺はレンファの胸元を見た。


「そういえばコンテストの賞品の首飾りはどうした?」

「ああ……あれは娼館のボスに奪われてしまったの」

「ほう、無理やりか?」

「そうよ。いつもそう。もういいの。私は所詮、モノだもの」

「モノじゃない。おまえはモノなんかじゃないぞ、レンファ。ちゃんと幻術を使って現実と戦っていたじゃないか。おまえは綺麗だ。そんなおまえを汚す存在は俺がぶっ殺してやる」

「レイジ……」

「待ってろ。すぐに取り戻してくる」


 俺は身支度をして、部屋を出た。

 娼館の主とやら。

 俺のレンファから水一滴でも奪おうものなら、貴様のカラダから血が一滴残らずなくなると知れい。



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