第35話



 俺はリンファの働いている娼館を訪れた。

 このピアノーゼの中でも最大級の大きさと豪華さを誇る娼館だ。

 店の中に入ると黒服がいた。


「いらっしゃいませ、お客様。当館は一夜限りの素晴らしい夢をあなたにご提供させて頂きます」

「ふむ、それはいい心がけだな」


 俺は黒服に顔を寄せた。


「リンファはいるか?」

「リンファですか……申し訳ありませんが、ただいま別のお客様とご一緒です」

「部屋に案内しろ」


 黒服は嘲笑するようにため息をついた。


「お客様、当館はリンファ以外にも美女がおりますゆえ……」

「関係ない。リンファのいる部屋を教えろ。二階か?」

「申し訳ありません、規則でそれは致しかねます」

「規則?」


 俺は黒服のポケットに、じゃらじゃらと金貨を入れてやった。


「……!」

「いいか、よく聞け。俺は規則とかルールとかいうものが大嫌いだ。どうして俺がそんなものを守らねばならん? 俺はそんなものからは自由な冒険者だ。ゴチャゴチャ抜かさずにリンファのいる部屋に案内しろ」

「……承知しました」


 従順になった黒服の肩を俺は叩く。


「賢明だ。俺はおまえのような素直なやつは好きだぞ」

「……ふふ」

「くっくっく」


 俺たちは二人で二階に上がった。


「こちらでございます。では……」


 203号室の前で黒服は立ち去った。

 この部屋の中でリンファが俺以外の男に……

 断じて許せぬ!

 俺は扉を蹴破って中に入った。

 すると、


「あら?」


 リンファがベッドに座って、ぼんやりしていた。

 その足元に男がひざまずいている。


「ああ、リンファたん、気持ちいいよリンファたん……」


 全裸のハゲ親父が、気持ちよさそうに腰を床にこすりつけていた。


「これは……どういうことだ?」

「あなたは誰?」

「俺はレイジ。凄腕の冒険者だ。おまえを買いに来た」

「そう……あなたは私の幻術が効かないのね」


 リンファが靴の底でハゲ親父の頭を叩いた。


「幻術、だと?」

「この部屋には私の魔法がかけてあるの。私と気持ちいい夢を見れるようにね……これが私の仕事」

「そうか、ではカラダを売っていたわけではないんだな?」

「そうよ。だって、悲しいじゃない。好きな男以外と結ばれるなんて……」

「ふっ、そうだな」


 俺はハゲ親父の首を一刀のもとに切り捨て、その死体を部屋の隅に蹴り飛ばすと、リンファの顎をつかんで持ち上げた。


「俺の女になれ。君は美しい」

「ええ、いいわよ」

「ほう、そうか? 意外に素直だな」

「この幻術を破れるような、本当に強い人が現れたら、その人のモノになろうと思っていたの……」


 リンファが俺の胸に頭を預けてきた。俺もそれを強く抱きしめる。


「レイジさん、だった? 優しくしてね」

「ああ、もちろんだ」


 俺はゆっくりとリンファに力をかけてベッドに寝かせた。

 あとはお愉しみというわけだ。


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