第32話



 その夜、俺とアリシアは宿屋をこっそり抜け出して、たっぷりと愛し合った。

 ……動物のように森の木陰でまぐわうのは興奮とともに恥ずかしいものがあった。

 とはいえ、一緒に宿を取っているミルキやアギサがいるのにヤるわけにもいかない。

 なので俺とアリシアはこうして逢引する羽目になっていたのだった。


「はあ……はあ……よかったぞ、アリシア」

「はい……私もです、レイジ様」


 銀髪紫眼をあらわにしたアリシアが上気した頬を俺の胸板に当ててくる。


「とってもようございました」

「そうか、それはよかった」

「……でもレイジ様。いいのですか?」

「なにがだ?」


 アリシアは顔を起こして俺を見下ろしてくる。


「ミルキやアギサと、本当は寝たいのでは?」

「ぶっ! ……ば、バカ言うな。俺にはおまえだけだアリシア」

「ふふ、御冗談を。殿方の理想は存じておりますよ」


 妖艶に微笑むアリシアの底知れなさにちょっと怯える俺である。


「……ミルキはまだ子供だろう。アギサは襲いかかったら斬られそうだ」

「そうですね。でも、二人ともレイジ様が誠意を持ってお願いすれば、受け入れてくれると思いますよ」

「誠意って……浮気だろう、一応」

「殿方の甲斐性です」

「……おまえなあ」


 アリシアの誘いは確かにたまらない。俺だってミルキやアギサの可憐さ、美しさは身にしみてわかっている。

 手を出したくないといえば嘘になる。

 だが……


「まだ、そういうのはいい」

「そうですか。……でも、ほかの子とも寝たいでしょう?」

「うう……」


 アリシアはぐりぐりと俺の胸板をなじる。


「……認めないと解放してくれないんだろ?」

「ふふふ」

「ああ、わかったよ。そうさ。ほかの女とも寝たいさ。確かにおまえは綺麗だし最高だ。でも、それとこれとは別なんだ。できるものなら目があった美人全員とヤりたい。それが男というものだ」

「正直で結構ですわ」


 アリシアはころんと草葉に寝転がった。


「では、次の目的地はピアノーゼでどうでしょう」

「ピアノーゼ? どんな街だ?」


 アリシアはふふっと微笑んだ。


「大陸一の、娼館街です」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る