第29話
「……ということで、今日を持ってこのダンジョン都市・ボルビイは俺がもらった。ライナード王国領から直ちにミルキング王国領となる。いいか?」
「そ、そんな……」
豪奢な椅子に腰掛けた、初老の男は涙目でメガネのつるを震える指で押し上げていた。
ダンジョン都市ボルビイのギルドマスターである。
俺はダンジョンコアを抜いてダンジョンを攻略しない代わりに、ミルキング王国の属領となれと命じたのだ。
滅ぼさないだけ感謝されたいところだな。
「ギルドマスターよ。これはとてもありがたい話なのだぞ? 俺の噂は聞いているだろう。ペレペイもギルメイも滅んだ。この都市とてたやすく葬り去れる。しかし、殺してばかりでは忍びないからこうして生き残れる方法を教えているのだ」
「そ、それは感謝しております。しかしライナード王国に歯向かえば即刻、反逆者として騎士団が来てしまいます」
「そんなもの俺がどうにかしてやる。心配しなくてよい」
「し、しかしぃっ……」
ギルマスはあまりの恐怖に泣き出してしまった。
まったく。歳はいくつだ? 60歳くらいか、男らしくないやつだ。
男というものはドンと構えておかねばならない。
この俺のようにな。
「とにかく、反論は許さない。すぐに冒険者たちにも伝えろ。これより新たな冒険者証を発行する。それを持っているものは我がミルキング王国民とみなす。他のダンジョンへ赴くものは追放だ。よいな」
「な、納得してくれるかどうか……結局、この都市も寂れてしまうのでは?」
「だとしても一時的なものだ。俺はライナード王国を占領するつもりだからな」
「あ、ああ……」
ついにギルマスは緊張の局地に達したのか失禁して気絶してしまった。まったく。汚いやつだ。
話は終わったので、俺はギルマスの館をあとにした。
外に出ると、暇をもてあましたミルキが木刀を振り回していた。それをアギサが指導している。
「もっとまっすぐ! 背骨に芯を入れるんだ」
「は、はい! 師匠!」
……いつの間に師弟関係になったのやら。
遠くでアリシアがサンドイッチを食べながらこちらを見ていた。
あの豊満な肉体はおやつから出来ているのだろうか。
「何をしているんだ、二人とも」
「ああ、レイジ。ミルキが剣を習いたいと言ってな」
「剣を? ミルキ、おまえは画家だ。その手は人を斬るためにあるんじゃない。何かを描くためにあるんだ。人斬りなら俺がやる」
「レイジ様……。ありがとうございます。でもっ、わたしもっ、レイジ様を守れるようにっ、なりたいんですっ!」
ぶんっぶんっぶんっ。
汗をかくミルキは美しい。
そうまで言うなら認めてやるか。
「あまり無理はするなよ」
「はいっ!」
「おうっ、ニャッ!」
足元で一緒に鍛錬していたニャンタを踏みそうになる。
やれやれ。
このときはただの遊びとしか思っていなかったミルキの剣の特訓が、思いがけない才能の開花に繋がるとはまだこの俺も知る由がないのだった。
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