第27話




 城の制圧は終わった。そして同時に、圧政で民を苦しめたジューヌ男爵家は断絶した。あれだけ絶倫で子供を残さなかったということは種無しだったのだろう。

 俺はとりあえず玉座に座ってみた。なかなかの座り心地だ。


「お似合いですよ、レイジ様」

「そうか? アリシア。男爵夫人の席があればおまえにも座ってもらいたいところだが」


 俺は目の前に寝かせたアギサを見下ろした。


「う、うう……ここは?」

「目が覚めたか、アギサ」

「おまえは……」

「名乗っていなかったかな。俺はレイジ。ジューヌ男爵は農民たちに殺された。革命は成ったのだ。おまえの役目も終わったわけだ」

「そうか……」


 アギサは天井を見上げて涙をこぼした。


「殺せ。主君を失った騎士に生きている値打ちなどない」

「ふむ。しかし主君を失えば新しい主君を探すのが騎士道ではないかな?」

「なに……?」

「べつに俺に従えとはもう言わん。だが、おまえほどの騎士ならば誰に仕えるべきか、自分で考えるべきだ。愚王に義理で付き従う人生でおまえはいいのか? この男になら、そう思える相手が見つかるまで、おまえの騎士道など戯言よ」

「な、なんだと……」

「自分の価値を思い知れ、アギサ。おまえには勝手に死ぬ権利などない。その力、使うべき場所を見つけるまで死ぬことはこの俺が許さん」

「…………」


 アギサはゆっくりと身を起こした。


「なら……私が私の真の主君を見つけるまで、おまえにも責任を取ってもらおう」

「なに?」

「私を連れて行け。この聖騎士アギサ、道行くおまえのかりそめの盾となろう」

「ふむ……ま、俺が言い出したことだしな。よかろう、ついてこい。よろしくな、アギサ」

「ああ」


 こうしてアギサが仲間になった。

 瞬間移動持ちの剣聖。冒険者でいえばSランク級だろう。


「さて……ハルト」

「はっ!」


 俺の足元に、かつて俺の寝込みを襲撃した青年が膝をついた。今では立派な戦士に成長した。


「この城の持ち主はもういない。そこでだ、おまえたちにこの城を明け渡そうと思う」

「なっ!? よろしいのですか?」

「ああ。誰か王を立て、ここにおまえたちの国を作るといい」

「私達の国……そんなことが許されるのですか?」

「もちろんだ。俺が許す」

「なんと……ありがたき幸せにございます。私達はレイジ様に身も心も救って頂きました。なんとお礼を申し上げればよいか……」

「気にするな。大変なのはこれからだ。俺は旅を続ける。おまえたちは自立して、自分たちの足で歩いていくんだ。いいな?」

「はっ。そこで、お願いがありますレイジ様」

「なんだ?」

「この国の名前を決めてほしいのです。せめて、それだけは」

「ふむ……そうか」


 俺はふいにミルキと目があった。


「よし、この国は……ミルキング王国だ!!!」

「え、ええーっ!? レイジ様ちょっとそれは恥ずかしすぎるんですけど!!」

「気にするな。後世までおまえの名を残してやろうという心遣いだ」

「うう……晒し者ですよぉ……」


 涙目になるミルキ。だがもう決めてしまったのだ。

 こうして、大陸のど真ん中に王国に対立する新王国・ミルキング王国が誕生したのだった!





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