第24話
二週間が経った。
村人たちは順調にレベルを上げている。最近は自ら単独で魔物を狩ろうとする者も出てきて望ましい限りだ。
俺はといえば貴族殺しのためにこのあたりの地形を覚えているところだった。
今回、戦うのは俺ではない。やつらを指揮して勝利することに意味がある。
それでこそ貴族のやつらも、己の愚かさを思い知りながら死ねるというものだろう。
「ん……何か騒がしいな」
猟師小屋の外で誰かが騒いでいた。
無視しようかと思ったが、一応顔を出してみる。
すると、そこには一体の魔物を取り囲んだ村人たちの姿があった。
「こいつ! まだ立ち上がるのか!」
「俺たちの剣を喰らっても生きてるなんて……!」
「くそぉっ! やけどしちまった、誰か回復! 回復してくれぇっ!」
俺は連中の前に立った。
「何をしてる?」
「あ、レイジ様。この炎の魔物を倒そうとしてて……」
見るとミルキの姿もあった。ケットシーのニャンタも剣を構えている。
俺は魔物の方を確かめた。
「ほう、フェニックスか。珍しいな。しかもミニ個体か」
「レイジ様……ミニ個体って?」
ミルキが小首を傾げて不思議そうにしている。
「通常の魔物よりも一回り小さく、弱い個体のことだ。とはいえ得られる成果物に代わりはないから冒険者たちは喜んで狩る。だが、ツイているな。フェニックスは通常では使役するのに魔力が膨大すぎるが、ミニ個体なら取り回しがいいかもしれん。ミルキ、契約してみろ」
「ええっ! 契約ですか? でも……どうやればいいか。魔物の言葉もわかりませんし……」
「おまえなら大丈夫だ。自分を信じてみろ」
「は、はい……」
ミルキは弱り羽ばたけず甲高く鳴くフェニックスのそばに膝をついた。
その目をしっかりと見る。
「いじめてごめんね。でも、食料庫を荒らされるわけにはいかなかったから……おなかがすいてたんだよね?」
「ピーッ、グエッ!」
「うん。じゃあ、これあげる」
ミルキは朝食の残りなのか、ジャンパースカートのポケットからパンを一切れ取り出した。絵描きは筆を直す時にパンくずを使うというが……思わぬところで役に立つものだ。
フェニックスはそのパンくずを炎のくちばしでついばみ、やがて闘気を納めていった。
「あ、レイジ様。なんかうまくいった感じがします!」
「うむ。では契約の紋章を描くんだ。それで契約できる」
「はいっ!」
ミルキは絵筆で紋章書片手に、契約紋を描いた。
フェニックスの額にその紋章が浮かび上がる。
「これでこの個体はミルキだけと契約したことになる。召喚も負担なくできるはずだ」
「わあい、やりました! レイジ様!」
「うむ。飛行戦力として、活躍してもらうとしよう。よくやったな、ミルキ」
俺が頭を撫でるとミルキはくすぐったそうに眼を細めた。
「おまえたち、狩れなくて悪いが、この個体はミルキのものだ。怪我したものはアリシアのところへゆくがいい」
「は、はい」
「さすがレイジ様とミルキ様だ。あんな強い魔物を従えてしまうなんて……」
口々に言う村人たち。これは今夜は俺とミルキの武勇伝で、話題は持ち切りになりそうだ。
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