第21話
俺たちは小さな農村を見つけた。森の中にあるのどかな場所だ。
宿屋、武器屋、簡易冒険者ギルドなどがある。ま、こんなところにあるギルドでは俺のことも知られてはいまいし、せいぜい近所のイノシシ狩りくらいしか依頼がない。役所のようなものだ。
「今日はここに泊まろうか」
「はい、レイジ様」
「賛成だニャー」
ミルキが消費魔力の鍛錬のために途中から継続召喚しているケットシーが答える。
「こらー、賛成です、でしょ? ニャンタ」
「その名で呼ぶニャ! なめてんのかニャ!」
ケットシーがミルキの腕の中で暴れている。ニャンタと名付けられたらしい。ニックネームはいいものだ。愛着が湧くからな。
「ニャンタ、貧相な村で悪いが、歩いていけるのはここまでだ」
「ぐぬぬ……レイジまでニャンタ呼ばわり。我輩への敬意が足りないニャ」
「ならば仕事で見せてほしいものだな、威厳とやらを」
ふふふ、とアリシアが俺たちのやり取りを見て笑う。
ミルキとニャンタが加わってからアリシアはよく笑うようになった。俺も嬉しい。
「さて、宿を取るか」
一軒しかない宿『白鳥亭』は全室空いているようだった。
「おやじ、一泊泊めてくれ」
「はいよ。旅人さんかい。珍しいねえ。ゆっくりしていってくれ。今日はごちそうを用意するからねぇ」
亭主がニコニコしながら揉み手している。さて……それほどチップを弾んだわけでもないし、宿代も高くない。そんなに客が嬉しいのだろうか?
「おやじ、このあたりでダンジョン発見とかはないか?」
「さてねぇ。このあたりで一番近いのはペレペイくらいだよ」
「そうか」
ペレペイ滅亡の知らせはまだここまで届いていないようだ。
「じゃ、歩き疲れたことだしさっそく休ませてもらうか」
「賛成です、レイジ様!」
俺たちは部屋に入って、山菜をふんだんに使った夕食を取ってからひとっぷろ浴びて、すぐに眠ってしまった。
そして夜……
俺は何者かの気配を感じて目を覚ました。
部屋の扉がぎしっ……と開く。
誰かが入って来た。大柄な影だ。
その影は、ミルキとアリシアが寝入っているのを確認すると、まっすぐ俺に向かってきた。
剣を持っている。
その剣が振り下ろされた!
がきぃぃぃん……
指一本で俺はその剣を受け止める。
「な、なにぃ!?」
「甘かったな。ハアッ!」
俺は布団を蹴り払って男にキックをお見舞いした。男は吹っ飛んで壁に激突してずるずると崩れ落ちる。
「ぐ、ぐは……」
「っ!? レイジ様、いったい何が?」
「あらあら」
ミルキとアリシアが目を覚まし、魔法のランプを灯した。
明るくなった部屋が、まだ若い侵入者を照らし出す。
俺は床に落ちた剣を拾い上げ、男に突き付けた。
「さて、こんな夜になんの用かな……?」
「くっ……ここまでか」
男は観念したように頭を下げた。
「言い訳はしない。殺せばいい」
「ふむ……なにか理由でもあるのか? 聞いてやらんでもないぞ」
「…………」
男はしばらくしてから語りだした。
「領主が……重税を課してくるんだ。それで収穫のほとんどを吸い上げられてしまって、俺たちみたいな小さな村人は、旅人狩りして餓えを凌ぐしかないんだ……」
「なるほどな……」
それで俺たちが泊まった時に亭主があんなにうれしそうだったのか。
「その領主とは?」
「このあたりを治めているジューヌ男爵だ。先代は名君だったんだが、後継ぎの男爵が最悪でな……俺たちが納めた税で豪遊三昧さ」
「よくある話だな」
俺はため息をつく。
「わかった。ここで俺を攻撃した罪をおまえに贖わせるのは簡単だが、それでは何も解決せん」
「で、では見逃してくれるのか?」
「いや、それはだめだ」
俺は男に剣を渡した。
「早朝、村人を集めろ。領主を襲撃するぞ」
「な、なんだって!? そ、そんなことしたら皆殺しにされるぞ!?」
「そうならないように、おまえら村人を鍛えてやる」
俺は自分のアイディアにほくそ笑んだ。
「小さな革命を起こそう、この村で。敵はジューヌ男爵。おまえたちを兵士に仕立て上げ、安寧をむさぼる領主をその座から引きずり下ろすのだ!」
高笑いする俺を、村人の男は恐ろしい悪魔にでも出会ったかのように見上げていた……
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