第16話
空地に辿り着いた俺は、ミルキに絵筆を構えさせた。
「ふふ、さまになっているぞ? ミルキ」
「か、からかわないでください……恥ずかしいです」
「そう言うな。これから立派な戦力になるんだからな」
アリシアがミルキの手を取る。
「落ち着いて、ミルキ。この本に描いてある紋章を空中に描くのです」
「は、はい。アリシア様」
「わたしのことは様づけでなくてもよいのですよ」
「あ、はい……アリシア、さん」
「ふふ」
少し心配だったが、アリシアとミルキは相性がいいようだ。
アリシアが世話焼きの姉、ミルキが気弱な妹というところか。
女の子同士が仲良くしていると、胸が暖かくなるものだな。
「ちなみにアリシア。その紋章はどんな魔物を呼び出すのだ?」
「これは、絵描きの才能に応じた悪魔を呼び出す紋章です、レイジ様」
「ほう、面白い。では俺が見込んだミルキの才能に応じた悪魔が出てくるというわけか」
「ええ。楽しみですね」
「うう……どんな悪魔が出てくるんだろう……怖いなあ……」
ミルキはまだ怯えているようだ。それもいつか、自信へと変わっていくだろう。
俺はただ、見守るだけだ。
「では、やってごらんなさい、ミルキ」
「は、はい!」
ミルキは空中に召喚陣を描いた。
「わ、我が召喚に応えよ、悪魔!」
描かれた召喚陣から火花が飛び散り、雷鳴と共に人影が現れた。
その姿は……
「ま、魔王レンピトー!?」
俺は見知ったその姿、緋色の髪に貴族服を着た怜悧な青年を見て驚愕した。
「え、ええ!? わ、わたしとんでもないものを召喚しちゃいました!」
ミルキも驚いている。
レンピトーは俺を見て薄く笑った。
「ほう……久しいな、レイジ。我が見込んだ男よ」
「……生きていたのか」
「我は貴様に倒された。だが、存在そのものが消滅したわけではない。いわば、ここにいるのは分霊のようなものだ」
レンピトーはミルキを見た。
「汝が我の助けを求めるものか?」
「は、はい! ミルキといいます」
「我は真なる天才を愛する。レイジのようにな。ふむ……汝にもその資格があるようだ」
「え、ええ!? ほんとうですか……?」
「我が召喚されたのがなによりの証拠」
そこでレンピトーはまた笑い、
「かつての敵と手を組むことになるとはな。よかろう、レイジよ。この少女と貴様に、我が力を貸そう」
「……俺が誰かを頼もしいと感じるのは生まれて初めてだ、レンピトーよ」
「ふふふ……今後ともよろしく」
そう言い残して、レンピトーは霧のように消えてしまった。
呆然としているミルキの頭を、俺はぽんぽんと叩いた。
「よくやったぞ、ミルキ」
「ふぇ……」
「これでおまえは、名実とも俺たちの仲間だ!」
こうして、天才画家にして魔王召喚士・ミルキが俺たちの仲間になったのだった。
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