第17話


 俺たちはペレペイのダンジョンを訪れた。

 入口で冒険者証を求められたが、ナズハからもらったピーゼの冒険者証でなんなく通れた。

 ダンジョンを訪れる冒険者など死んでも構わないと思っているのだろう。門番はいつも安月給だ。まじめに働いているやつを見たことがない。

 緊張して巣の中に猫がいるのを見つけた鼠のようになったミルキの肩を叩いて緊張をほぐす。


「心配するな。俺がついている」

「は、はい! ぜひともお役に立ってみせます!」

「最初からなんでもできるのは俺くらいだ。ミルキはゆっくりでいいさ」

「レイジ様……」


 ミルキの頬が赤い。視線をあちこちに逸らしている。


「では、いこうか」


 大した緊張感もない。この程度のダンジョン、俺なら素手でも踏破できるからな。


「どうせ攻略してしまうんだ。お宝は頂いていくか。ミルキへの小遣いにもなるしな」

「はい、レイジ様。……サーチ!」


 アリシアがダンジョンをサーチしてくれる。俺は一瞥してすべて記憶した。


「はわ~広いですね……」

「中規模というところだ。もっとランクの高いダンジョンならサーチしきれんぞ」

「そ、そうなんですか……」

「よし。近場の宝箱はあっちだな……うん?」


 宝箱のある突き当りに、誰かがすでにいた。冒険者だろう。


「おい、やったぜ! 宝箱だ!」

「へへっ、これでここを出たら娼館にいけるぜ」

「楽しみだなあ」


 のんきな男連中だ。モテないから男だけでパーティを組んでいるのだろう。


「おい、見ろよ。あれ……」

「なんだ、似顔絵かきのミルキじゃねえか。なんでダンジョンにいるんだ?」

「どうせ食い詰めて冒険者になろうと血迷ったんだろ。……へへ、どれ、俺たちでダンジョンの怖さを教えてやるか」


 男どもが近寄ってくる。ミルキが怯えたように震えだす。


「あ……あ……」

「よおミルキ! いじめてほしくて来たのか?」

「ち、ちが……」

「俺たち、ダンジョンにこもりっきりでタマってんだ。ちょっと遊んでもらうぜ!」


 ミルキに襲いかかろうとする男の前に、俺は立ちふさがった。


「どけよ、ボンクラ! てめぇみたいな雑魚に用はねぇ」

「ほう。俺が雑魚かどうか、ちょっと確かめてもらおうじゃないか」


 俺はミルキを振り返る。


「ミルキ。今から召喚魔法の手本を見せてやる。召喚獣とはこう扱うのだ」


 俺のセリフに男どもがせせら笑う。


「召喚獣だとぉ? この男、何を言い出すんだ、召喚魔法は高レベルの魔術師にしか使えないんだぜ! 知らないのかァ?」

「おまえがな」


 俺は指先で空中に簡易紋章を描いた。


「う、うわ! 蛇だ! 蛇が出てきた!」

「逃げろ! ……ギャッ!」


 俺の紋章から飛び出した大蛇は、手近にいた男を丸呑みした。うまそうにゲップしている。


「ひええええええ! ひとごろしーっ!」

「たすけてぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ!!!!!!!!!!!」


 男たちは宝箱も放り出して転がるように逃げていった。そのあとを空腹の大蛇が後を追う。


「わ、わわ……すごい、あんな強力な魔物を呼び出すなんて……」

「どうってことはないさ。これからはミルキもたくさん召喚獣を扱えるようになり、あのような悪党どもを自分で倒せるようになるといい。気分がいいぞ?」

「そうですね、私も早く、強くならないと……」


 ミルキが神妙に頷くが、魔王レンピトーを呼び出せるだけ、すでにとんでもなく強いのだがな。

 俺は宝箱を開けて、中にあった金貨の袋をミルキに放った。


「お小遣いだ。自由にするといい」

「こ、こんなに! いいんですか!」

「ああ。たんと無駄遣いするといい。今までずっと我慢してきたんだから」

「わーい! ありがとうございます、レイジ様!」


 花が咲くようなミルキの笑顔を見れて、俺はほくほくだった。



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