第13話



 俺は絵描きの少女を連れて宿の部屋を取った。

 安物だが綺麗なベッドに少女を寝かせる。

 少女が目を覚ましそうだ。


「う、うーん……ここは」

「気が付いたか?」

「あ、えと、あなたは……」

「おまえは悪党に絡まれていたんだ。大丈夫だ、やつは俺が追い払った」


 あの世にな。

 殺したことを言えば怯えてしまうかもしれない。

 やつの命にそんな値打ちはない。


「そうだったんですか……すみません、ご迷惑をおかけしました」


 金髪そばかす少女がぺこりと俺に頭を下げる。


「気にするな。それにしても、絵が上手だな」

「そ、そうですか?」

「ああ。あれほどの腕があれば、画家になることもできただろう。なぜあんなところで似顔絵描きを……」

「それは……」


 少女は話しにくそうに顔を伏せてしまった。俺はため息をつく。


「俺はレイジ。こっちはアリシアだ。おまえの名前は?」

「あ、私はミルキといいます」

「腹が減った顔をしているぞ。何か持ってこさせよう。アリシア。シチューか何かを用意させてくれ」

「畏まりました、レイジ様」


 アリシアが階下に降りていく。すぐにシチューを持ってきてくれた。


「早かったな」

「手が遅くやる気がなさそうだったので、私が作りました」

「そうか、ありがとう」


 俺はミルキにシチューを差し出した。


「食べるといい」

「で、でも私、おカネが……」

「そんなもの要求するように見えるか?」


 俺が微笑むと、ミルキはおずおずとシチューに手を出した。


「いただきます」

「ああ、どうぞ」

「……! おいしい!」

「よかったな、アリシア。さすがだ」

「とんでもありません、レイジ様」

「俺も頂くとしよう」


 暖かいシチューが俺たちの体を温める。

 現代日本では、こんなに気持ちのこもった料理は食べたことがない。

 つくづくあの世界がクソだと感じる。


「はぐはぐっ……もぐっ」

「はは、ミルキよ。そう急いで食べなくてもいいぞ」

「あ、すいません! 思わず……」


 ミルキはスプーンを動かす手を止め、ポロポロと泣き始めた。


「うっ……」

「……つらい目に遭って来たのか?」

「画家に……なりたかったです。でも、今はどの商会も貴族の子息の絵しか買ってくれないんです。だから……」

「ふん……なるほどな。貴族のやりそうなことだ」


 俺はミルキの頭を撫でた。


「ふぇっ……?」

「もう安心しろ。俺がなんとかしてやる」

「れ、レイジ様……そんな、私なんかのために。それに貴族に逆らったらどうなるか……」

「心配するな。俺は貴族より強い」


 俺はアリシアを手招きした。


「ダンジョン攻略は後回しだ。アリシア、この町の商会が何軒あるか調べてくれ」

「畏まりました、レイジ様」

「ミルキ、何作か絵を描いてくれないか?」

「え……いいですけど。でも、どうして……」


 そんなことは決まっている。

 貴族の連中に、本物の才能というものを教えてやるのだ。


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