第11話


 ダンジョン都市ペリペイ。

 俺とアリシアはそこに辿り着いた。

 町は中規模だが、なかなかの賑わいを見せている。

 どいつもこいつもアホ面下げて……バカバカしい。

 ダンジョンを地道に攻略して自信をつけているのか知らないが、明るい表情で道を歩く冒険者を見ていると反吐が出る。

 どうせ俺の前に立てば震えだすというのにな。

 愚かなことだ。


「レイジ様。いかがしましょう。宿の手配をしますか?」

「いや、先に冒険者ギルドに行こう。そこで冒険者証を新たに発行してもらう」

「……発行してもらえるでしょうか? レイジ様のご高名はすでに広まっているかと」

「ふん。まァ、逆らうようなら皆殺しだ」


 俺が歩き出そうとしたとき、視線を感じた。


「…………?」


 横を見ると、路地裏から、女冒険者らしきやつが、俺を見てニヤリと笑った。

 ほう……俺がご所望か。

 なんだかわからないが付き合ってやろう。


「レイジ様?」

「なんだかわからないが、ガンをつけられた。ついてこい、アリシア」

「はい」


 俺は女を追って路地裏を進む。

 やがて、行き止まりになった。


「この俺を睨むとは、いい度胸だな、女」

「睨んでなんかいないよ」


 女は振り返ると、ケロリっと笑った。赤毛のロング、革鎧、しかし隙のない身のこなし。Aランクか。


「ちょっとお話したかっただけ。……伝説の『レンピトー殺しのレイジ』さんと、ね」

「ほう……俺を知っているのか。貴様、何者だ?」

「あたしはナズハ。ソードマスターよ」

「そのソードマスター様が、俺になんの用だ?」

「ふふん。実はあなたがダンジョン都市を一つ滅亡させて、追われてるって聞いてね……そしたら案の定、この町でも新しい冒険者証を貰おうとしてて、びっくりしたってわけ」

「俺が何をしようと俺の勝手だ。口出しをするな」


 ナズハが肩をすくめる。


「そうなんだけどね。そうもいかないのよ、『ファン』としては」

「うん……?」

「ねぇ、いまこの都市でも騒ぎを起こしたら、どうせあなたのことだから皆殺しにしちゃうんでしょ? それってかえって面倒じゃない? ダンジョン、潜りたいんでしょ?」

「ああ。ここも滅ぼすからな」

「どうせなら、少しは冒険者ごっこしたくない? おカネだって稼げるしさ。皆殺しにしちゃったらそれまででしょ」

「ふむ……」


 俺は考える。確かにこの女の言うことに一理はある。

 別に従う道理もないけどな。


「だったらなんだ、ナズハとやら。おまえがなんとかしてくれるのか?」

「はい、これはなんだと思う?」


 ナズハが革鎧の胸の部分から、何かカードのようなものを取り出した。どこにしまってんだ。


「……冒険者証、か?」

「正解。これはこないだ水死体で揚がった冒険者のライセンスでね。これ、あたしが細工しといたからまだ使えるの? つまり背乗りってやつね」

「ほう……見せてみろ」

「あン、偽物じゃないってば」


 俺はナズハから冒険者証を奪い取った。

 ふん、やはりな。この間、殺してやったピーゼのライセンスだ。


「これは貰っておくぞ。シャクだが、確かに俺はもうライセンスを発行してもらえないだろうからな」

「どうぞどうぞ。ご自由に」

「ナズハ……貴様、何者だ? なぜ俺の味方をする?」

「ふふ……それだけ、あなたにはみんな『期待』してるってこと。伝説の魔王討伐者……

 だってそうでしょ?

 ……魔王はまだ、十七柱もいるんだから……」


 それだけ言い残して、ナズハは転移魔法であっさりと姿をくらませた。

 なにがソードマスターだ。ウィザードも習得済なんじゃないか。

 俺はぴらぴらとピーゼの冒険者証を振りながら、ふっと微笑んだ。


「アリシア。どうも面白いことが起きようとしているようだ」

「はい、レイジ様。でもレイジ様なら、どんな困難も乗り越えられると信じております」

「ありがとう、アリシア。おまえはどんな時も、俺の味方だな」


 俺たちはギルドにいくのをやめ、ダンジョンに挑戦することにした。


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