第7話



 女はいい。眠れぬ夜を癒してくれる。

 俺は思うのだ。女は男のために存在しなければならない。

 自分の意志や、ましてや好き嫌いなど持たせるべきではない。

 幼少のころから男に仕えるようキッチリと教育すべきだ。

 女はただ、男に身も心も捧げる道具であればよい。

 それでこそ、男も労働しようという気になるものだ。


 さすがに7Pは応えて、俺は疲れていた。ベッドはぎゅうぎゅうだ。

 それでもアリシアだけは隣に寝かせる。路傍のクソ女とアリシアでは価値が違う。

 ハーフエルフというだけで、人間から迫害されていたアリシアを助けたのは5年前。

 それから俺たちはずっと一緒だ。


 人間は、すぐに己と違うものを迫害する。

 前世の俺がそうだ。

 優秀で勤勉、会社のためを思い身を粉にして働いた。

 それなのに、会社が俺につけたあだ名は「嘘つき」だった。

 俺は嘘などついていない。正直に、自分の人生を台無しにしてまで働いたのだ。

 薄給でも文句を言わず、いつか報われると信じた。

 その挙句が……過労死だ。

 俺は絶対に、前の人生のような生き方はしない。



 夜が明けた。

 俺は不要になった夜伽の女どもを追い出し、アリシアを起こした。

 アリシアと朝の陽ざしを浴びながら食べるサンドイッチは最高にうまい。

 コンビニ弁当とは比較にならないほどメシがうまいのだ、この世界のいいところだ。

 何度同じものを食べても飽きが来ない。

 最高だな。


「アリシア、ここの近辺で近いギルドはどこだ?」

「ダンジョン都市ペレペイになります、レイジ様」

「ふむ。ではそこを次の目的地とするか」

「かしこまりました」


 アリシアが頷いたところで、何やら廊下が騒がしくなった。

 俺が外に顔を出すと、革鎧を着た大男が暴れていた。


「そのレイジってやつを出せ! 俺っちのキヨミを抱きやがって! 殺してやる!」

「や、やめてよあんた! あたしは大丈夫だから……」

「うるせぇ! 人の女に手を出しやがって、殺してやる!」


 俺は廊下に出た。


「誰が誰を殺すって?」

「てめえか! レイジとかいう冒険者は! おまえ、俺の女は夜伽じゃなかったのに……くそが!」

「女は俺に股を開くために生を受けたのだ。おまえはなんだ? 羽虫か? 近寄るな、くさいぞ」

「こ、殺すううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!」


 大男は俺に向かって分厚い剣を振り下ろした。

 かわすのも面倒だ。

 俺は指一本で、その剣を受け止めてやった。


「な、なにい!?」

「バカ者が。貴様ごときの力では、俺に傷をつけることなどできぬわ」

「く、くそお! 女を取られて黙ってられるかあ!」

「では黙らせてやろう」


 俺はナイフを取り出して男の首をかき切った。


「ぐあっ……かっ……」


 大男がその場に崩れ落ちる。


「あ、あんたあ!」


 キヨミというらしい女も男に駆け寄ってめそめそ泣き始めた。

 くだらない。

 オスとして価値のないタンパク質が死んだだけで泣くな。うっとうしい。


「キヨミとやら。次は男を選ぶんだな」

「うっ、うう……」

「涙、か……」


 俺はアリシアを伴いながら、宿をあとにした。

 俺は死んだとき、誰にも泣いてもらえなかった。

 泣いてもらえるだけ、あの大男はマシなのだ。


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