第6話


「ここは旅の宿……おや、お二人さんは冒険者かい」

「そうだ。一泊頼む。メシは最高級のものを用意しろ」

「はは、こんな田舎の宿屋でそんなこと言われてもってエエエエエエエエエエエエエ!?!??!?!??」


 俺が放り投げた金貨を見て、田舎宿の亭主は目を見開き尻もちをついた。


「き、金貨! は、はじめて見た……」

「哀れな……このようなもの、ダンジョンにもぐればいくらでも手に入るぞ?」

「ぐっ……」


 亭主は悔しそうな顔をする。どうせ冒険者になれず、こんな路傍で宿屋をやっているのだろう。

 才能のないやつは惨めだな。俺にはその気持ちはわからん。


「こんな安宿でも、うまい魚くらいあるだろう。焼いて出せ。俺はナマモノは食わん」

「わ、わかりました……くそう、かわいい女まで連れやがって……リア充め……」

「リア充?」


 俺は亭主の胸倉をつかんだ。


「ひ、ひい! 聞こえましたか!?」

「待て。貴様、その単語を知っているということは、まさか転生者か?」


 亭主は目を背けた。

 ふん……たまにいるのだ。俺と同じ、かつて日本と呼ばれた悪しき国から転生してきた者が。

 といっても、なんの才覚も神に与えられなかったらしいな。


「本来なら、あの国を知っているだけで死に値する。が……特別に許してやってもいい」

「ほ、ほんとうですか!?」

「ああ。ここも宿なのだ、夜伽の女くらいいるだろう」

「そ、それはまあ」

「五人ほど今晩連れてこい。それでチャラにしてやる」

「そ、そんな! それじゃほかのお客のぶんが……」

「何か言ったか?」

「い、いえ。わかりました……」


 俺はげんこつで亭主のハゲた頭のこめかみをごりっと削ってやった。女みたいな悲鳴をあげて涙目になる亭主。


「返事がよくなければ死んでいたところだ。肝に銘じておけ」

「は、はい。ありがたき幸せ……」

「ふん。それでいいんだ。いくぞアリシア。荷物を運びこめ」

「かしこまりました、レイジ様」


 俺とアリシアは二階に上がろうとした。

 そのとき……


「……見ていられないな、君の非道は」


 後ろから声をかけられた。

 俺は怒りに駆られながら振り返る。

 見ると、若い金髪の騎士然とした男が、やれやれとため息をついているところだった。


「強さを盾に横暴三昧。時々、いるんだ。君のような冒険者が」

「だからどうした。俺は強い。つまり、自由だということだ」

「それも、自分より強いものが現れるまでだろう」


 騎士男が手袋を投げてきた。アリシアが俺にぶつかる前にそれをキャッチする。


「我が名はピーゼ。決闘を申し込む。そこの亭主の屈辱、僕が晴らしてみせよう」

「ほお……俺とやるというのか?」

「ああ、表に出てもらおう」

「いいだろう」


 俺とピーゼを名乗る男は外に出た。もう夕暮れだ。気持ちのよい風が吹いている。


「先に一撃を入れた方が勝ち。いいね」

「かまわん」

「では、いくよ!」


 ピーゼは剣を抜き放ち俺に斬りかかってきた。

 だが、


「ぴええええええええええええええええっ!??!?!???!?!?」


 その場に跪いて股間を抑えるピーゼ。顔が真っ青だ。

 俺はほくそ笑む。


「どうした? 歩こうとしたらつま先が当たってしまった。何か潰したような気がするが、大丈夫か?」

「コッ……コハッ……」

「股間を抑えてどうしたんだ? そうか、アリシアを見て劣情を催したか。そんな非道な者は許せないなあ」

「ひっ……た、たすけ」

「ダメ」


 俺はピーゼと名乗る男の両手足を切り飛ばした。ごろりと転がり泣き叫ぶ騎士をそのままそばの川に蹴り落とす。鮮血の靄が川に浮かんだ。


「バカが。誰に逆らったかも判断できんから、股間をつぶされる羽目になるんだ」

「哀れですね。潰すより斬ってしまった方がよかったのでは?」

「ふん……最後の情けさ」


 俺は金髪のキザな男が大嫌いだ。

 みんな死んでしまえばよい。


「さ、アリシア。今夜はいろんな女の子と遊べるぞ」

「はい。楽しみです。レイジ様……」


 俺とアリシアは手を取り合って、宿の中へと戻っていった。

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