ライオット
電探に表示されたのは飛行物体。
即時警戒警報が鳴り響いた。
量産化に成功した悪路をも行ける四脚の鉄の機動兵器、機兵。
連装ロケット砲と機銃、そして城壁さえ撃ち抜く主砲を有している。
それらに火が入り、機械油の臭いが格納庫に充満していた。
「積めるだけ積んでくれ!!あいつはおれの獲物だ!!」
搭乗する射手のライオットが叫んだ。
過剰に弾薬を積むませるのには理由がある。
国家元首の命により試験の名目で煉獄へと投入された兄の部隊が戻らなかったのだ。
後に遺体と形を変えた機兵が回収され、それがドラゴンによるものだと推測された。
敵討ちのチャンスを逃すような臆病者ではない。
生まれた時からドラゴンが、煉獄が、帝国の悲願であるという教育下に育てられた彼らの練度は高く、さらに個人的な怒りを抱いたライオットは決死の覚悟である。
レイブン国を狙い続けてきた秘密兵器、列車砲も転身し、飛来するドラゴンに照準を合わせようとしている。
機兵の出撃が終わる頃にはすでに機関銃を抱えた重装兵が戦列をなして防壁の外を駆けている。
高高度からゆっくりと降りてくるドラゴンの周囲に炎の姿が確認できた。
先制の一撃はドラゴンの魔法である。
大地に刺さり爆煙をあげる光景は世界の終わりさえ信じるに値する光景であるが、機械帝国の兵は止まらない。
肉片となり炭となった屍を乗り越えて前進を継続する重装兵。
照準を合わせ、装填を終えた列車砲は轟音と共に巨大な弾頭をドラゴンの翼に撃ち込むことに成功する。
不意をつくようにして放たれた一撃は、翼を貫通するに至らずとも十分な効果があった。
続けて放たれるロケット砲弾により、ドラゴンは大地に落とされた。
そこへ射程を確保した重装兵が機関銃を腰だめで奏で出す。
鱗によって弾かれてはいるが、数によって撃ち続けることで効果が期待できることを知っていた。
重装兵を前に左右に別れて包囲するように陣取る機兵。
主砲の発射と同時に全ての連装ロケット砲を一斉射開始。
効果があるのか否か?
噴煙と爆発によって確認できないでいるが、攻撃中止の命令が出るまで全力で撃ち続ける。
ライオットは装填を急がせ、操舵手にさらなる前進を支持する。
もっと威力を出すために近距離で主砲をブチ込もうというのだ。
粉塵と爆煙の中でドラゴンは煩わしい人間たちを一掃すべく力を溜めている。
「もっと前に出るんだよ!!」
トリガーを引きながらライオットが叫ぶ。
操舵手が味方の跳弾と爆風を警戒して前ではなく、あえてドラゴンの後方へと進路を変えた。
それに続くようにして半数の機兵が追従した。
後方では列車砲の第2射が準備中であるが、装填にはまだ時間がかかる。
砲弾の大きさはもちろん、射角の調整だけでも時間がかかる。
数百の兵で管理運用する列車砲、一機では足りなかったのだ。
ドラゴンの体が赤熱し、噴煙さえ貫いて辺りを照らしたかと思うと、音もなく衝撃が走り抜けた。
機兵の鉄の巨体が弾けるように揺さぶられ、電子回路がショートし、機内が予備電源に切り替わる。
「畜生!!なんだ今のは!?」
ライオットが叫ぶが返事がない。
操舵手と装填手が意識を失ってしまったのだ。
「まだ死ぬんじゃねーよ!!」
ライオットは怒りに燃えて機銃を撃ち出す。
辛うじて反撃に出てたのは一部の機兵と、戦意を保っている重装兵だけだ。
重装兵の大半が溶解し、肉と鉄の鎧が溶け合った。
ドラゴンは尾を振り左右の機兵を薙ぎ払う。
次々と潰される機兵は逃げる脚を失っている。
「まだ負けてねーぞ!!」
迫り来る尾を見ることもなく機銃を撃ち続けるライオット。
彼の機兵も尾によって宙を舞い、放物線を描いて大地に叩き落される。
重装兵は戦力の大半を失ったことで戦線を下げる判断をする。
後退しながらの銃撃が続く。
彼らの銃身が熱を持ち砕けて行く。機関銃を失った兵は抜刀してドラゴンへと斬りかかる。
無慈悲にも腕によって潰され、弾かれて行く。
半壊した機兵の脚部はほとんど動かない。
激痛でライオット自身も呼吸するのがやっとである。
内臓を痛めたのか、または四肢を損傷したのか確認する余裕もなかった。
声を上げて突撃する重装兵の姿が見える。
戦線はすでに崩壊していることを知る。
すでに乗組員はライオット以外死亡している。
幸いにもドラゴンとまだ交戦している機兵が幾らかは残っている。
各自距離を取って砲撃を継続していた。
第二陣の出撃に期待してライオットの右腕が動く。
血の滲んだ右目は照準を睨み、ドラゴンを捉えた。
撃ち出された機銃弾は数秒と持たず撃ち尽くされたが、効果があった。
そこは偶然にも黒の騎士団によって傷を受けた鱗であった。
痛みに身をよじるドラゴン。絶大的な存在も痛みを感じるのだ。
ライオットは、機兵後部に強引に積んだ弾薬を装填するために動き出す。
そこへ機兵の第二陣とさらなる重装歩兵が加わる。
「逃がさねーぞ」
ライオットは大きな砲弾を抱えながらドラゴンを睨んだ。
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