魔眼

雷と炎そして覆い被さる土の波が閃光と爆煙を発生させている。

後先考えない魔道書の行使。

ガローラの表情は険しい。ドラゴンに通用しているのか否か判断はつかない。

攻撃の中に割って入ればただでは済まない。

マサトにできることは傍観だけだった。

ドラゴンの巨体が爆炎を超えてガローラに迫る。

口元が僅かに動いている。

ドラゴンが用いる最上位魔法、龍魔法が詠唱を始めたのだ。

ドラゴンの周囲に火球が無数に出現し、煉獄を昼のように照らす。

太陽よりも輝くそれらは瞬時に加速してガローラを襲う。

氷壁が生まれ、ガローラの盾となるが容易く砕かれるが軌道が逸れる。

氷壁が全て崩れ辺りが炎に包まれてもドラゴンの魔法は止まない。

ガローラは人間離れした速度でドラゴンの魔法を回避する。

けれど数が多すぎる、次第に爆発に飲まれ熱と炎に身を焼かれた。

「ガローラ!!」

マサトが叫び恐怖から立ち上がるが、機兵から受けたダメージが残っている。

かけつけることもできない。

ガローラの両腕は熱で蒸発し片目も失った。

それでも立っている。

「魔道書の力をただの人間が使いこなせるものか!!」

ドラゴンの目には強い怒りがあり、言葉だけで心臓を潰すほどの威が込められている。

ガローラも戦うつもりだ、逃げるという選択肢はない。

さらなる魔法を詠唱なしで繰り出すが、それらはドラゴンの鱗の1枚も貫くことはできない。

ドラゴンはマサトを見ていない。最初からひ弱な人間としか思っていないのだ。

ガローラが連れているいつもの側近のように戦力外として意識の外。

強引に動けば一太刀は動けるかもしれない。

マサトは考える。

奇襲は一度。それで何が変わるのか?魔法が効かぬ相手に剣が通るのか?

当然ガローラが倒された後に自身が狙われるのは必然である。

動くなら今しかなかったのだが、大きいのだドラゴンの首や心臓には届かない。

そこに思いがけない加勢が訪れた。

黒の騎士団である。

弓が放たれ矢がドラゴンの鱗に刺さった。通用するのだ彼らの武器は。

連中の優先目標はドラゴンであるらしく、マサトやガローラには手を出さない。

鱗に傷をつけられたドラゴンは怒りに任せて炎を口から撒き散らし、尾を振り回す。

影となってドラゴンを翻弄する黒の騎士団、その数は10を超えていた。

次々と集まり統制のとれた遠距離からの弓と、捨て身の剣戟で襲いかかる。

ガローラが片膝をついて崩れるように倒れた。

マサトがガローラに走り寄る。

龍魔法の爆炎が辺りを抉り始めた。数の優位はあれど黒の騎士団も倒れて行く。

「残念だが、ここまでのようだよ。もう魔法を放つ力が残されていないんだ」

ガローラの言葉は死を覚悟しているものだが、清々しささえ感じさせる。

後悔のない言葉だった。

「混乱に乗じて逃げるにも1人では厳しいだろうさ。

私を殺して魔道書を持って行け。

今なら振り切れるかもしれない。だけど戻ってはいけない。煉獄の支配者にあの傲慢なトカゲに我々の国が知られてしまう。

先へ進み新天地を目指して欲しい」

ガローラの願いにマサトは頷くしかない。

「魔道書はドラゴンの魔眼で作られているそうだ。私が共に旅をしていた転生者の言葉だ。本来の持ち主だったがアイツに潰されてしまったのだよ。

因果なことにその魔眼というのはアイツの兄弟の眼だったそうだ。

いつか君が強くなった時民を救って欲しい。

安住の地へ導いて欲しい...マサト...」

合図のようにガローラが言い終えるとマサトは心臓を貫いた。

それは魔道書の契約を更新して、1人の王の想いを継ぐ儀式であった。

ガローラの肉体は灰に変わり、煉獄の地に風と共に消えた。

黒の騎士団が劣勢ではあるがドラゴンもマサトを追うほどの余裕はない。

振り返らず、マサトは煉獄の奥へと走った。ドラゴンは死を宣告するように、マサトを睨み続けた。





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