機兵

先に目を覚ましたのはマサトだった。

数時間か数日かわからないがマサトは深い眠りに落ちていたのだ。

ガローラは動かずに眠り続けていた。

マサトがガローラを起こす前に異変を察知する。

振動が伝わってきたのだ。

重量のある大きな何か。

やがて視界に入るとそれらが奏でる音が聞き覚えのある音であるとわかる。

動力が何であるかはわからないが、兵器であることは間違いなかった。

鉄の駆動音が大きくなり、周囲を警戒しながら進む。

移動速度は重量の割に速いが、戦車のような履帯ではなく大きな脚4本で移動している。

「機兵だな。マサト、アレからは逃げられない先手を打つぞ」

危険を感じ取ったのかガローラは目を覚ましてすでに臨戦態勢で支持を出した。

戦車の異世界型ともいうのか?

マサトはそれに剣と盾で戦うことが悪い冗談のように思えた。

もちろん魔法という神秘的な援護を受けてだがこれもありえない組み合わせだった。

機兵の脚が止まり上部構造物の砲身が旋回を開始している。

砲撃が来るのだ。

他にも機銃やおそらくミサイルやロケットなどのユニットが装備されているのが確認できる。

張り付いて中にいるであろう人を倒すしかない。

マサトは砲の旋回が止まると同時に横に飛んだ。

砲身が光る前に、砲弾が放たれる前にガローラが魔法を発動させた。

飛行型デーモンに放った火の魔法ではなく、青白い輝きを放つ槍を放ったのだ。

機兵の側面を捉え、一瞬にして高電圧が装甲を這うようにして脚部で爆ぜた。

砲身から発射された砲弾が逸れ、柱に命中して爆発する。

ガローラの魔法はさらに続けて詠唱により岩の巨人を生み出した。

マサトを追って巨人も機兵に迫る。

砲身の制御不能に問題が生じたのか、動く脚で強引に機兵は向きを変えて機銃を放つ。

左右に動き迫るマサトを銃弾が追いかける。

音速を超える銃弾の雨がマサトには見えているわけではない。

ただがむしゃらに動いているのだが、制御を失った機兵の攻撃は安定性を欠いているのだ。

距離を離そうと後退する機兵にマサトが張り付く。

脚部の装甲の隙間、可動部に剣を突き立てた。

血のように噴き出す機械油、悲鳴のような可動音。

機動力を欠いた機兵は岩の巨人に追いつかれ、振り下ろされた両腕によって砲身を折られてしまう。

だが相手は生き物ではない、痛みを持たない鉄の兵器。完全に潰すまで動くのだ。

内部へ侵入しようと目を凝らすマサト、機銃がそれを遮る。

近距離からの機銃を盾で受けるも弾き飛ばされる。

岩の巨人もロケット砲弾を受け、頭部を失い崩れて散った。

ガローラは機兵の攻撃に備えて柱の陰へ身を隠した。

立ち上がる事を許さない機銃の銃弾がマサトを攻撃する。

鉄を貫く銃弾であったが、盾を抜くことはできなかった。どうやら黒の騎士団の装備はただの金属ではないようだった。

けれど全身を守るには十分な面積ではない。

マサトの身体に銃弾が入った。

ガローラが柱の陰から飛び出し詠唱を行う。

有効な魔法を選んでいる猶予はない。

鈍い音が衝撃と同時に伝わる。

ガローラは詠唱を辞めた。機兵は強靭な腕に握りつぶされ、完全に活動を停止した。

何が起きたのかマサトは盾から覗く。

デーモンよりも遥かに大きな身体と翼。そして神々しくもある眼光。

長く伸びた尾はどこまでもあるかのようだった。

「煉獄の支配者」

マサトが声に出していた。命の大きさがまるで違う。こんな別次元の存在とガローラは戦っていたのだ。

煉獄の支配者と呼ばれる存在はドラゴンである。

それも最強クラスのドラゴンだった。

「欲深い奴隷の王、煉獄の地をまだ諦めぬか?」

ドラゴンの口が開くと人の言葉でガローラに語りかけた。

「煉獄の支配者にして最強の者よ。今日こそその命を貰い受ける」

ガローラはドラゴンを前にしても臆することはない。

マサトの頬を冷たい汗が伝い、明確な死を覚悟した。




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