ガローラ

黒の騎士団は全滅したわけではない。

あくまで小隊を倒したにすぎない。

また疲弊したガローラを休ませる必要があった。

転生者のマサトとは違い身体そのものは人間なのである。

石とも鉄ともわからない柱に背をつけるガローラ、目を閉じて眠りに入る。

柱はいくつか点在しており、人工物のようにも見えるが、およそ人が暮らすには適さない場所である。

どのような意図で作られた物であるのか見当もつかない。

煉獄の奥へと進み続けたが、空間は広がり地上からは遠ざかるばかりであった。

どうやら煉獄の支配者に相対する目的も果たせそうにはなかったが、ガローラには諦めた様子はなかった。

槍をマサトが失った時に切り札はなく、戻る事が賢明といえた。

それをしないガローラには退けない理由がある。

争いの絶えない地上よりも奴隷王ガローラにとっては煉獄の地こそが自由そのものなのだ。

生活に向いた土地ではなくとても快適とは思えない場所であるが、煉獄の入り口は複数存在している事をガローラは知っている。

地上の王達の干渉を受けない場所を目指しているのだ。

当然危険な捕食者もいれば、他国の探求者との遭遇もあった。

それでもガローラが生き延びてこれたのは魔道書のもたらす恩恵が大きかった。

今回の煉獄の支配者への挑戦はマサトを得ても無謀であったが、ガローラには無理を押し通すしかない。

魔道書は使用者の命を吸うことで恩恵を与える、文字通り魔道書であるからだ。

100を超える魔法を使い、ガローラの命は残り少ない。

せめて煉獄の支配者の血を飲むことが叶うのならば延命が可能となり、奴隷の民の希望が潰えることはないのだ。

だが煉獄の支配者の血を飲んだ者は1人しか存在していないと記録されている。

大きな賭けにマサトはつき合わされているのである。

異世界の所縁もない国の奴隷の王。敵ではないが味方でもない。

けれど、マサトはガローラとの旅を悪くないと感じていた。

幸いなことに辺りにデーモンの姿もなくガローラを起こす必要もない。

少しだけマサトもガローラの側で目を閉ざして。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る