黒の騎士団

ガローラ一団は飛行型デーモンを倒した後に三度の遭遇戦を経て疲弊している。

魔道書の力は強力であったが連続した使用はできなかった。

時間を稼ぐために側近とマサトが牽制する必要があった。

大型のデーモンでなければ手練れの側近は役割を果たした。

大型ともなるとそうはいかなかったが、誰も失うことなく進み続けることができた。

戦闘を行くガローラの足取りは遅くなり、疲れを隠すことができない。

側近が休息を提案しようとガローラに声をかける。

次の瞬間側近の体が弾けた。

「厄介な連中に遭遇したようだ。やるしかない、行け!!」

側近がガローラの指示に従い敵に向かう。

マサトには見えないが彼らには遠方の狙撃手が見えているようだった。

攻撃を回避するべく身を低く獣のように動く。

「マサト、君は私を守れ、近くに潜んでいる」

ガローラは魔法の詠唱に入った。

槍を強く握り、ガローラの死角を補うように背を合わせるマサト。

側近達との戦闘で要領を掴んでいる。

影がマサトの前に現れ、肩を貫かれてしまう。

蹴り飛ばし追撃を防ぐも何をされたのかわからない。

マサトの肩を貫いたのは暗殺に特化した剣であり、黒い刀身は黒の騎士団の象徴でもあった。

金属の鎧で身を包んでいながらも動きは速く、手傷を負ったマサトの槍では捉えられない。

マサトを抜けてガローラの間合いに入る黒い騎士。

「まずは1人」

振り下ろされた剣をガローラは素手で掴み呟いた。

剣先から侵食するように石化が開始され、逃げる間もなく騎士は石となり崩れた。

攻撃が防御さえ兼ねる。

本当にマサトは必要なのか?疑問を抱くも、次の騎士が現れる。

「連中は影から影へと飛ぶことができる、油断するな」

ガローラのアドバイスを受けて影を警戒するマサト。

当然マサト自身にも影はあるのだ。いつ刃が迫るともわからない。単純な速度さえマサトを凌駕している。

ガローラの背面に騎士がもう一体現れる。

「どうやらもう我々以外死んだようだぞ」

慌てることなくガローラは言った。

マサトはガローラを援護できず眼前の騎士の剣戟を弾くので手一杯だ。

ガローラは魔道書を収め、剣戟を交わし素手で殴りかかっている。

鉄の鎧が陥没し、さながら爆発音のような音が鳴る。

ガローラが二体を殴り殺した後に影からさらに五体の黒い騎士が現れる。

盾を持ち囲み距離を詰める。

「ガローラ!!」

息も絶え絶えのマサトが縋るよう名を叫ぶ。

ガローラは半ば呆れたように呪文を唱えた。

すると囲んでいた黒い騎士が背後から仲間に襲われる。

「死体というのは便利なものだよ」

ガローラの魔法が死体を操り同士討ちを行わせる。

影から影へと移動して騎士達がガローラから離れる。

連中はこの魔法をすでに知っているのだ。

距離を離されてはアンデットとして使役する死体では追いつけない。

「消耗戦になる、マサト休んでいろ」

アンデット達を盾のように配置してガローラも備えた。

ここまでは定石通りの戦いであったのかもしれない。

騎士達は弓を構えて狙撃に戦術を変えるが、倒された仲間は少なくはない。

先の短い攻防でガローラとマサトの周囲を囲むだけの駒は手に入れているのだった。

数においての有利はガローラにある。しかし連中はまだ数を呼ぶことができるのかもしれない。

「いつものように退いてくれれば良いが、今回は少し疲れたぞ」

ガローラの力は今も失われているようで、魔道書の輝きが弱まっている。

肩の出血が止まり、感覚が戻っている。マサトはアンデットの防壁から抜けて槍を放つ。

放物線ではなく直線起動で襲いかかる槍。

避けるのではなく受ける事を騎士達は選択した。

3枚に合わせた盾の防御を容易に貫く。決着だ。

「驚いたな...。転生者の力とはこれほど強大なものなのか?」

ガローラの顔からは疲れは消えてマサトを労う。

だが流石の魔道書を持ってしても殺された側近達を蘇らせることはできないのであった。

マサトは死体から盾と剣を奪い、砕けてしまった骨の槍と装備を変更した。

煉獄の大地は何も変わらず脈打っている。



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