煉獄の捕食者

唸るような大地の鼓動、焼けるような空気。

煉獄の門を潜ったマサトとガローラ。

ガローラの側近5名が後に続いた。

荷物という荷物はなく、必要なものは現地調達。

戦闘不能になれば王であるガローラさえも捨て帰還するという。

煉獄の門の先は地の底へと続くような緩やかな下りであり、地面は岩盤というよりも巨大な骨のような何かだった。

もしかしたらすでに化け物の腹の中ではないのかと思えるほどに、禍々しい。

所々にある亀裂からは赤光を放つ流れのようなものが見えるが、マグマや火の類ではなく触れても問題はないようだった。

「デーモンが出ても慌てることはない。ただ黒の騎士団と煉獄の支配者との不意の遭遇だけは避けなければいけないからね」

臆せずに進むガローラがマサトに煉獄の歩き方を伝える。

煉獄はあらゆる場所に繋がる地下回廊であり、

デーモンの発生源でもある。

それらの中でも最強に位置するのが人間でもデーモンでもない煉獄の支配者と呼ばれる存在であるという。

遭遇することは稀で、接近は容易に察知できるので身を隠すことで回避可能だとされていた。

「デーモンよりも危ない相手なのか?」

マサトの質問に側近が答える。

「煉獄の広さは未だ解明されておらず、多くのものが帰ることはない。デーモンクラスでも危険だが煉獄の支配者は地上においても敵うものはいない。

デーモンの魔法よりより高度な魔法を操り、ガローラ様の魔法でも倒すに至らず、決着がついていないのだ」

骨の兜を被り、骨を削り出し鋭利な槍とする側近の装備。屈強な肉体を鎧とする選りすぐられた側近にそこまで言わせるのだ、気を引き締める必要があった。

マサトに渡された装備は 顎の骨を利用したであろう、長く太い骨の槍。

側近の使う槍よりも一回り大きい。本来ならば体格に優れてはいないマサトが持つには大きく重い代物であるが、デーモンとの戦いで肉体の再構築がなされ、身体能力が向上し腕力だけでなく強靭さと回復能力も向上しているのだった。

薄っすらと熱で歪んだ遠景にデーモンの姿が見える。さほど大きくもないデーモンだったが、マサトの知るデーモンとは形が違うのがわかる。

「翼が生えています、それに尾も長い」

側近はガローラの前に立ち報告した。

ガローラの指示はない。

その必要もないほどの敵だというのかマサトには判断がつかない。

「マサト君の仕事は今じゃない。が死んでもらっては困るんだ」

ガローラの言葉の真意はわかっている。

マサトの役割は煉獄の支配者に槍を突き立てることにある。

ガローラのいうには、槍には特別な呪詛が込められていてどんな相手にも一定の効果が見込めると言うのだ。

もちろん最大の目的はそれではなく、煉獄の把握が目的だが、チャンスがあれば狩るというのだ。

ガローラだ挑発するように雄叫びをあげた。

大地の唸りに負けない声だった。

デーモンは人間が煉獄にいることを察知した。

翼を広げて距離を詰めて来る。

解き放たれた矢のように真っ直ぐに高速でガローラを狙う。

「わたしから離れろ。死ぬぞ」

ガローラは言いながら魔道書を出し、魔法を詠唱することなく、魔法を発動させてみせた。

赤い球体、凝縮された炎がデーモンを迎え撃つ。

凝縮された炎は軌跡を残しながら直進する。

デーモンは突然の魔法攻撃に反応する間もなく肉片となり飛散してしまった。

呆気ない。デーモンをここまで簡単に葬るこちができる魔道書。そして使いこなすガローラ。

マサトは底知れぬ者と物に恐怖するだけであった。

ガローラ彼もまた煉獄の捕食者である。


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