魔道書

奴隷王ガローラ。絶大的なカリスマとして崇められる存在。

マサトはガローラと膝を交えて語り合っていた。

少年はガローラのお気に入りだったらしく、少年は兄弟にようにガローラに懐いている。

どこか見覚えのある肉を出され、マサトは口に運ぶ。

油がひどく粘着質ではあったが味は悪くはない。

テーブルに肘をついてガローラが珍しそうにマサトを眺めている。

「初めての味だけど美味しいです」

正直な感想にガローラは驚かされる。

ガローラにそれがデーモンの肉であると教えられると手に持った肉への認識が変わるのであった。

「間違いない。マサト君は転生者だ。そこで

尋ねたいことがある」

肉を皿に戻し、マサトはガローラの目を真っ直ぐに見据えて質問を待つ。

ガローラの質問とは好奇心から来るもので、決してマサトの今後をどうこうしようというものではなかった。

「君のいた世界とはどんな場所だった?

海はあるのか?空は何色だ?」

ガローラの目は子供のように輝いていた。

マサトがいた世界は日本。世界の情勢には明るくはないが、育った街や友達のこと家族のことを語ることを選んだ。

特にガローラが興味を持ったのは安全の保障された国家、日本そのものだった。

当然歴史の成り立ちなど義務教育で覚えている範囲でマサトは語ることになる。

テーブルの蝋燭が消える頃には、第二次世界大戦や核爆弾の脅威まで語り終えていた。

ガローラは新しい蝋燭を手配し、眠りに入った少年にそっと毛布をかけた。

ガローラの好奇心は貪欲であった。そもそも立場的にマサトをどうするのかすら口にせず、飢えた雛鳥のように貪欲に知識を貪る。

マサトはガローラの内面も異質であると悟った。

以前の世界でも出会ったことのない得意なタイプの存在であり、きっと今後も出会うことはないだろうとさえ感じていた。

しばらく離席したガローラはマサトに見せたい物があると自室に招いた。

防御を兼ねてだろうか階段は狭く螺旋を成している。

そして着いたのは骨で組まれた部屋であった。

「すごいだろう?外からの防御を兼ねているというのは建前で私の趣味だ。全てデーモンの骨であるぞ」

マサトに宝物を見せつけるガローラ。

こんなことをやってのけるだけの戦力が奴隷達にあるのなら、自由を求めて地上の王を討てるのではないか?

マサトは混乱してしまう。

デーモンの恐ろしさは身に染みているのだから尚更だ。

「ガローラあなたはデーモンより強いのか?」

マサトは口にせずにはいられなかった。

「そうではない、私はただの人間でしかないのだ。

ただ偶然手に入れたにすぎないのさ」

そう言って、ガローラはマサトの前に手を出してみせる。

何も握られていない。

ゆっくり開いたガローラの手の上に真っ赤な本が一冊薄っすらと現れ、すぐに消えた。

「魔道書と呼ばれる武器だ」

ガローラの目に狂喜が宿っていた。

「武器とは言っても完全に制御はできないのだが、君が倒したデーモンくらいなら枝を折るより早く殺すことができるだろう。

もちろん誰にでも使えるわけではない。

例外として持ち主を殺して契約を交わせばその限りではないだろう。

私はそうした、マサト試してみるか?」

ガローラの目は本気だった。

地上の愚王と地下の凶王。魔道書の力がいかほどかはわからないが、素手でさえガローラには勝てない。何より争う理由はマサトにはなかった。

「君に仕事を頼みたい。一緒に向こう側へ行かないか?」

ガローラの言う向こう側とは地上という意味ではない、煉獄の門の向こう側である。

ここでガローラの機嫌や興味を削いでしまったら殺される。

マサトは選択肢のない選択を選ばされることになる。



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