奴隷の王

冷たく日の温もりを感じない場所。

昼も夜もない地下階層にマサトは落ちた。

当然地下で働く者達が駆けつける事になるのだが、労働者階級のさらに下の奴隷の少年がマサトを先に発見した。

転生者が世界の均衡を崩す危険な存在であると誰もが理解している。

もちろん奴隷の少年にもわかる事だ。

だからこそ少年は身動きのとれないマサトをデーモンの死体の上から引き摺り、奴隷達の集落に運ぶ事にした。

もし転生者にも人の心があるのなら助けた事で、虐げられる自分達奴隷を救ってくれるかもしれない。

そう思わざるをえないほどにこの国の奴隷の扱いは酷かった。

動けなくなればデーモンの餌に、動けても動かなくなるまで使い潰されるのだ。

命は平等ではない、異世界においても変わりはなかった。

マサトの意識が戻って身体の回復までに数日を要したが、家畜の餌より不潔な食料でも口に入れた事で回復が早かったのかもしれない。

もちろんその食料は少年の食事を当てたものだった。

大人1人が立てるかどうかの天井に蝋燭の灯りがともされた。

「君が助けてくれたの?」

小さな体の少年は羨望の眼差しを向けている。

マサトの優しげな口調に安心したのか早口で、状況を説明した。

デーモンの死体がすでに回収されマサトは死んだと判断された事、そして奴隷の村は安全とは言えない事。

ゲイルの安否がきになるが、死んだと思われていることはマサトにとっては都合が良かった。

言葉は理解できダメージも回復している。

このまま安全な場所へ逃げるにしてもゲイルを探すにしてももっと情報が必要だった。

少年に大人はいないのかと尋ねると、少年はマサトを奴隷の王の元へと案内する。

暗く狭い洞穴が幾つにも枝分かれし、その隅に木の板で作られた小屋がある。

それは家と呼ぶには頼りないものだったが、付着したカビや汚れがどれ程の年月を経ているのかが見てとれた。

蟻や微生物にでもなった気分でマサトは少年に手を引かれ、ついに大きな空間に出た。

そこはデーモンと死闘を繰り広げた闘技場よりも広い空間だった。

闇を払うように辺りには蝋燭が立てられ、石作の家が幾つも並んでいた。

その遥か先に赤黒く輝く円状の軌跡が見える。

「あれは煉獄の門、あっちに行ったら戻ってこれないんだ。

ぼくの父さんも兄さんも戻らなかった」

少年の顔には悲しみも怒りもなく、それはそれと受け入れている。

言葉もなく煉獄の門を見つめるマサト。あの先に何かがある。まるで自分の一部がそこにあるかのような感覚に取り憑かれそうになる。

少年がマサトの手を取って再び歩き出した。

人力で、それも奴隷の力だけで作ったには大きな砦がある。そこが奴隷の王の城である。

入り口には痩せてはいるが無駄のない身体の男達がおり、随分と痛んだ剣を腰に帯びていた。

「ガローラに会いたい、転生者を連れてきたんだ。この人はぼくの友達だ」

転生者という言葉に緊張が走ったが、先のデーモンを討伐した強者に抗うことはできないと男達は抜刀しなかった。

ざわめきが起こり、奴隷の土地である地下に突然現れた転生者を住民が囲むようにして目を向ける。

少年は誇らしそうにもう一度言った。

「ぼくの友達なんだ」

騒ぎが大きくなると場に似合わない男が1人、マサトに歩み寄る。

住民は口を閉じ目を伏して道を開けた。

屈強な肉体と整った顔立ち、そして奴隷達とも上の兵士達とも違う体格。

鉄でできているかのような完璧な肉体だった。

「私が奴隷王 ガローラ。転生者、理りを壊す異界の者が私の国に何用か?」

嘘やごまかしの通じる相手ではない。

マサトはまるで自身が縮むかのような錯覚をおぼえた。





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