城塞都市
転生者マサト。十字架に磔にされ半月が過ぎても死ぬことはなかった。
彼が転生した場所は石を積み上げた堅牢な防壁を持つ、大規模な城塞都市国家である。
アーレムと呼ばれる世界にある1つの都市だということ、そして連中が転生者を恐れ憎んでいることがわかった。
不思議な事に殺すまではしない事だった。
不定期に家畜程度の食料と水がマサトの口に運ばれる。
異世界アーレムに飛ばされる前はある程度清潔であった衣服は血と土で塗れ、白い空間以上の絶望にマサトは包まれていた。
円形の施設には退路はなく、要所には甲冑を纏い、槍を持ち腰に帯刀する重装歩兵が立つつ。
一切の隙はなかった。
手首と足首に打ち込まれた金属の杭はマサトを固定し、カカシのように立てられている。
特別な力もなく痛みに強いわけでもないマサトは、突然身に降りかかった悲劇から涙を枯らす事になる。
人が人にすることが許されるのか?
理由もなく転生者だというだけで迫害されてしまう世界。
理不尽、不条理、不自然、無意味...
それらの感情がマサトの内側で蠢き怒りが生まれようとしていた。
「何だ?先客がいたのか?」
眠りに落ちていたマサトに声がかかった。
どうやら新しい転生者が打ち立てられようとしているようである。
十字架に自身が打ち付けられたのと同じ手順で杭を打たれ、カカシのように立てられる。
木槌で鉄の杭を打つ度にマサトに痛みが蘇る。
「おい、挨拶くらいしたらどうだ?」
男は顔色ひとつ変えることはなく、当たり前のようにマサトに言った。
言葉の柔らかな印象から気を許しそうになったのか口が開いたが、声は出ない様子だった。
「いいだろう動けないんだ、口くらい自由にさせてくれよ」
彼を運んで来た兵士達の目は厳しいが、制裁を加えようとはしなかった。
「ここはどこですか?」
マサトの声は細く疲弊しているのがわかる。
男はまずは挨拶だと名乗り、それからゆっくりと状況を説明していった。
男の名はゲイル。やはり転生者であった。
この場所が闘技場でありやがてどちらかが死ぬか、両方が死ぬ事になることを丁寧に説明する。
全く何も知らずに転生したマサトはゲイルからすれば警戒するに値しない存在である。
拘束されたまま数日が過ぎ、マサトはゲイルが語る世界のルールや幾つも存在する都市国家を学んだ。
退屈こそしなかったが、ゲイルはマサトのいた世界の話を催促しよく思い出せないマサトを困らせた。
2人の間に友情が芽生え始めた頃、闘技場に人が集まり始めた。
きらびやかな装飾に身を包んだ貴族、痩せた民衆と靴も持たない子供達が半刻もせずに場を満たす。
やがて兵達が2人を強引に十字架から解き放った。
ゲイルが動こうとすると兵達は槍で囲み大楯を使い場の中央へと追いやる。
咳き込み痛みに悶えるマサトと別にゲイルは立ち上がり、この国の王を見上げていた。
マサトも憶えている。
何もわからない自分をこんな目に合わせた張本人なのだから。
王の周囲には弓兵も配置されており、こういった行為を繰り返してきたことがわかる。
「マサト、お前はまだ人を殺したことも戦ったこともない」
王を睨みながらゲイルが語り出した。
「どうやら今回は協力する必要があるようだ。例え何があっても相手を倒す事に躊躇するな。
転生者の肉体は丈夫だが不死身じゃない、それにアイツらは人間の形をした悪魔だ」
2人を囲んでいた兵達が離れると、闘技場の地面が開いた。
地鳴りのように鳴り響く駆動音と獣の声。
粉塵が辺りを包む。
しばらくの静寂の後、王の号令により音楽が奏でられる。
粉塵の中から巨大な影が浮かび上がり、マサトの身体が宙に舞った。
一瞬の出来事であったが、ゲイルは攻撃を回避して背面に回り込む。
マサトの安否を確認する余裕はない。
ゲイルは知っていた。趣味の悪い王様がデーモンと呼ばれる異形を飼い馴らしていることを。
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