嫌悪感の底に、行ったみた。



目の前にいる広がる血が私を証明してくれる。人間のクズたちのおびただしい血がすべてから解放された気分に包んでくれる。



外ではサイレンの音が響き渡る。


家族4人が殺害されたと、通報が入った。現場に着くと、毛布を掛けれた14歳の少女が両脇に抱えながら、警察車両に歩いていく。毛布の隙間から少女の口元の口角が上がっているのが見えた。後部座席に乗せられ車は、そのまま走り去る。無数のフラシュとともに、異様な空気が漂わせる。


 家に入ると、玄関に70代くらいのおじいさんが、うつぶせで、背中など、何か所か刺された状態で、血を流して、倒れていた。

 書斎と見られる部屋では、年配の50代男性が、仰向け倒れていて、何か所も刺された状態で、床に血を流れ落ちていた。

 お風呂場では、70代くらいが、背中を一突きで刺されてた状態で、湯船に、水に顔が浸かった状態で倒れていた。

 そして、最後に入った50代とみられる女性は、他とは違い残虐さを感じるほどに、頭から胸にかけて、数十回刺されていて、亡くなっていた。


 取り調べ室に座っている少女は不気味な笑みをずっご浮かべながら、荒木春奈は、その様子を、少女の後ろから眺めている。

「何で殺したの?」

うふっと、少女は目は冷酷で、片方の口角を上げて、鼻から息を漏らした。

「お兄さん、かっこいいね」と目の前に座っている高城警部補をみて言う。

「まじめに答えなさい」

 自らの家族を惨殺して、全く反省の色さえなく、悪びれた様子もにない。ただ、冷酷な微笑みを浮かべて、事件のことなど話そうとはしない。



 ミミは留置所の薄暗い部屋で、壁を睨む。 気味の悪い声で、頭の中に『何なのあんたは、物分かりのない子だね』と響き渡る。嫌悪感に満ちた母親の顔が蘇ってくる。気味が悪い。都合のいいことを言えば、偉いのだろうか。

 ほんと、あんたは周りに迷惑をかけるわよね。また、母親の声が頭に響く。大っ嫌いで、すべてを否定してくる人間。

 あの顔を燃やしたい。どうやって殺そう。ミミを否定する怨念を浴びせたい。何度も刺して、怨念を浴びせた。刺している時は、解放されて気分であったが、時間が経つにつれて、他に何もなかったことに気づき始める。

 すべてを狂わせるように、行った行為は、少しの満足感があって、あとは、何一つ達成していなかった。顔を燃やせば、解放されるのだろうか。ただ、サイレンに聞こえてきて、燃やすことはできなかった。



 荒木は、何度も、少女、田中みのりの殺害状況を確認する。同級生の児童相談所で働く森川香織が、少女と面会をした後、「家族が嫌だったんだろう」と言った。

「嫌って?」

「家族を否定しているというか、関係性を終わらせたいというか‥」

「否定、終わらせる、ねえ」

「何て言えばいいのかな。まだ未成年で、親元を離れるすべがないというか。家出する子もいるけど、田中みのりの場合は、そんな考えがなかったから、殺害という行為に行った感じがするんだよね。」

「う~ん、まあ、そういう感じね」

「ごめん、上手く説明できなくて」

「別に、いいよ。まあ、殺害を犯す人間の気持ちなんて、考えてたら、警察官としての俺には支障がでそうだし」

「そう。まあ、お手柔らかに、話してあげてね」

 そう言って、森川は警察署を後にした。殺害を犯すまでに、さまざまに事情は隠されているのだろう。だけど、それは、なかなか浮き彫りにはならないし、問題視されにくい。警察にとって、その問題が起きない限り、動けない。

 森川も何もできない様子でいたが、児童相談所も、あからさまに、食事を与えない、暴力振るわれているという問題がなければ、その家庭に関与することはできないのだ。

 田中みのりの家族は、傍から見れば、ごく普通の恵まれた家庭だ。父親は、公務員で、市役所で働いていて、母親も、一般企業での事務員として、働いていた。祖父母も定年を終えて、自由きまっまに生活していたようだった。どんな家庭にでも、潜む闇に、気づくことは、やはり難しいのだ。



「魚のような生臭い」近所の小学校の時に、学年が上の人に言われた。その言葉に、やっぱり臭いんだと思った。家に帰って、風呂で何度も洗ったも、匂いが消える気がしなった。何度も、何度も洗っても、匂いが取れない気がして、小学校4年生に冬から、家に引きこもるようになった。

 そして、引きこもあって半年が経って、従姉が結婚をすることになった。出席するように、母親に言われた。絶対に嫌だったので、しないと伝えた。それでも、母親が「いいじゃないの。明るいことは必要よ」と発した言葉に虫唾が走った。

 行きたくないという子ども気持ちに寄り添ってくれない、無神経さに、違和感しか感じなかった。結局、結婚式には出席はしなった。

 自分の人生に、この母親が居なくても、困らない気がした。自分の記憶からこの人たちを抹消したい。自分を否定し続ける家族に嫌気はさしていた。この見えない呪縛から解放されたい。

 リストカットをする人がいるが、ミミにはそんな考えは芽生えることなかった。

 自分を否定しているというより、親たちを否定しているから、自傷行為には至らないのかもしれない。

 自傷行為がのある気持ちが生まれてくれれば、どこか救われるのではないかと思ったこともあった。ただの、ないものねだりだろうが。

 すべてをリセットしたかった。嫌悪感から解放されたかった。でも、殺したところで、何も解放されなかった。暗くて、仄暗い世界が広がっているだけだった。



「お母さんって、どんな人?」

「・・・・」

「お父さんって、どんな人だった?」

「・・・・」

「おじいちゃんは、どんな人?」

「・・・・」

「おばあちゃんは、どんな人?」

「・・・・」

すべて、無言で終わらされる。あと、田中みのりは食事をほとんど食べていないと連絡が来ていた。なので、頬が擦れていて、生気があまり感じなかった。また、何も自供しないまま、時間が過ぎて、何も聞けないまま終わった。

部署に戻って、荒木はソファにもたれ掛かった。

「無理そうですね」

「高城!!」

「なんていうのか。もう終わらせた感があるじゃないですか」

「何、それ!?」

「もう、殺したことで、田中みのりの中で、終わっているというか」

 確かに、田中みのりは、もう達成感に満ちているのだろう。これから先、自分がどうなってもいいという諦めているとうか、生きる気力がないとうか。これ以上、何をしても意味がないのも事実だった。

 

あんなに興味のなかったリストカットをしたくなっていた。でも、何もない。何を食べても、すぐに吐いてしまう。食べることに、体が拒絶反応が出ていた。

 ずっと、三角座りをして、壁を見つめる日々が続く。これはいつまで、続くのだろうか。終わりのない日常に、何も感じなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミミの孤独な気持ち 一色 サラ @Saku89make

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説