第4話:初の勝利!悪魔デスリンボー
ゴオとデスリンボーの同時攻撃によって、怒りの悪魔ソーリーは完全に消滅したはずであった。
しかし怒りのエネルギーを全て失ったはずのソーリーが、再びデスリンボーたちの前に姿を現した!
苦しみの悪魔イレグラを名乗った彼女は、自らの長い爪に舌を這わせる。
「ふふふ、怒りの感情を取り除いてくれたことには感謝するわ。だけど事態は悪化したかもねっ。欲望の悪魔さん!」イレグラ
「お、お主は一体何者なんじゃ!ソーリーと同じ姿をしておるが、身にまとっておる感情は全くの別物!どうなっておる!?」デスリンボー
「あら、わからないー?じゃあもう一度名乗るけど、私は苦しみの悪魔イレグラ。怒りの感情を植え付けられていただけの、かわいそうな悪魔よ」イレグラ
「さっきので名乗っておったのか……。って、感情を植え付けるじゃと?まさかアイム……もといトオに施されていたのと同じ術か!」デスリンボー
デスリンボーの問いかけに、イレグラはにやりと笑う。
そして苦しみの悪魔は、舐めていた爪をデスリンボーに向けた!
「さすがは上級悪魔……察しがいいわね!私は、仕えていた上級悪魔に逆らったときに、力と記憶を奪われた!そして苦しみのエネルギーを封じるために、怒りの悪魔ソーリーという新人格を発現させられたのよ!」イレグラ
「なるほどな。忠実な部下としての記憶と感情を植え付けたというわけか。その上級悪魔……手口がソーリーと似通っておるわい」デスリンボー
「だけどソーリーの心をつかむことはできなかったみたい。彼女は主を捨てて、力を求めてこのリンボーヒール村にやってきたわ。当然よ。いくら本質を弄ったところで、素体は私だもん……ねっ!」イレグラ
「ぐっ!」デスリンボー
イレグラがデスリンボーに飛びかかり、長く鋭い爪を振り下ろす!
硬質的なデスリンボーの両手を地面に叩きつけ、欲望の悪魔の首に向かって鋭い爪を突きつけた!
デスリンボーは体をそらすことでかろうじて回避するが、直後に放たれたイレグラの蹴りを受けて、神殿の壁まで吹き飛ばされてしまう。
イレグラは体の調子を確かめるように、爪の素振りを始める。
「へへへ。これが上級悪魔の力ってやつかぁ。……素晴らしい!これもソーリーが村全体を苦しめてくれたおかげね!今や私は、あなたやソーリーよりも沢山の感情エネルギーを手にしたわ!」イレグラ
「ぐぐぐ……。こ、小娘が~っ。わしの狙いは貴様じゃなくて、ソーリーじゃというのに~。おいっ!この辺で村から手を引かねば、わしらは本気で貴様を消しにかかるぞっ!」デスリンボー
体を起こして忠告するデスリンボー。
地面に叩きつけられた両手を浮遊させて、戦闘の構えを取っている。
イレグラも応じるように、爪を構える。
「私の目的は、万物に私以上の苦しみを与えること!そして全ての苦しみを吸収し、苦しみエネルギーを増やすのよ!……私の苦しみは増し、万物は苦しみから解放されるでしょうね。そんな不公平を私が許すはずもなく、私は更なる苦しみを万物に与え、また吸収する!……これがどういうことか、わかるっ?」イレグラ
「ふんっ。欲望とは相容れることのない、この世から抹消すべき存在というわけじゃな!」デスリンボー
「例外なく苦しめということよ!村ひとつだって逃しはしないわ!さあ、あなたも共に苦しむの!ひとまず、その欲望の体を粉みじんにしてやるっ!」イレグラ
デスリンボーの両手と、イレグラの爪がぶつかり合う!
ふたりは息を合わせたかのように、同時に飛びかかったのだ!
そして手を振り上げ、自らの凶器を何度も相手に打ちつけている!
回避と防御を駆使して、隙を見つけては相手に攻撃を繰り出している!
しかし、徐々にイレグラの攻撃の手数が増えていき、逆にデスリンボーは防御中心の立ち回りになっていく。
「うおおおぉっ!こ、こりゃあキツすぎる~っ!せ、戦闘慣れしておるな貴様ーっ!」デスリンボー
「私が強いわけないじゃん!それともこれで本気のつもりっ?はあっ!」イレグラ
「うおっ!」デスリンボー
イレグラの攻撃で、デスリンボーの両手は左右に弾き飛ばされる。
そのまま両手の爪を、無防備になったデスリンボーに容赦なく振り下ろした!
欲望エネルギーを上乗せした爪が、デスリンボーに襲い掛かる!
しかし、彼女の爪がデスリンボーに届くことはなかった。
爪がデスリンボーを切り裂くよりも先に、ゴオによる悪魔の剣の一撃が、イレグラの首を叩き切っていたのだ!
「ど、どうだーっ!」ゴオ
「ゴオ!目覚めておったか!」デスリンボー
「ああ、話はぼんやり聞かせてもらったぜ!だが聞こえた話では、こいつは苦しみの悪魔って話だ!怒りエネルギーを宿した剣は効かないんだろう?」ゴオ
そのとき、分離したはずのイレグラの体と顔が同時に動き出す。
体は背後に飛び退き、顔は体を追うように浮遊する。
ふたつは互いに欠けた部位を埋めるように合わさり、瞬時に再生することで、元どおりのイレグラとなった!
「そう、効きはしなかったわね。でも私だけ首を刎ねられるという精神的苦痛を味わったわよ!不意打ちまでされた!……この苦しみ、私以外にも与えるしかない!でなければ、私の気が済まないっ!」イレグラ
「へっ!苦しみの悪魔が聞いてあきれるぜ!苦しみなんてものは、お前のようなやつが全て持っていけばいいんだ!そうすればみんな、今の俺のように心が晴れやかになるはずさ!」ゴオ
「おおっ!苦しみの感情を奪われたことで、ゴオの欲望が力を発揮しておる!あれは、苦しみのない今を維持したいという欲望!」デスリンボー
「イレグラ!苦しみなんてものは、存在価値がないどころかマイナスなのさ!存在そのものが迷惑ってわけだ!その忌まわしい力を振りかざすというなら、俺たちの平穏のためにも、お前を消す!」ゴオ
ゴオは剣を構え、イレグラに向かっていく!
欲望溢れるゴオの動きにはキレがあり、何倍も速いはずのイレグラの攻撃を、最低限の動作と手数でやりすごしている。
しかし、それでもゴオに反撃の隙は一切ない!
圧倒的な上級悪魔の攻撃速度の前では、効率的なゴオの立ち回りでさえも、反撃する機会を作り出すことはできないのだ!
剣と爪をぶつけ合い、ふたりは動きを止める。
「人間にしてはできる動きね!でも私の前ではすべてが苦し紛れ!ほんのわずかにでも力を抜けば、あなたに苦しみの制裁が下るわっ!」イレグラ
「ぐく……っ!な、なら、このまま力比べしようじゃねーかっ。それが……効かない剣なりの使い方だぜっ」ゴオ
「あら、苦しそうだけど、なにか策でも」イレグラ
「わしが策じゃ~っ!死ねい!」デスリンボー
ふたりが会話している間に、デスリンボーがイレグラの背後に回り込む!
そしてデスリンボーは硬質的な両手を振りかざし、イレグラを背後から切り裂いた!
「がっ!ぐあああああぁっ!」イレグラ
背後からの一撃を受け、イレグラは叫び声をあげる。
無防備な背中に受けた傷は深く、先ほど吸収したばかりの苦しみエネルギーの大半が、傷口から流れ出ていく。
イレグラは床に膝を着くと、恨めしい目でデスリンボーを睨みつけた。
「お、おのれぇっ!よくも私の感情を奪ったわねぇ~っ!クズのようなエネルギー量の分際でよくもおおおぉっ!」イレグラ
「そいつは悪いな。だけど俺が使う剣技は暗殺剣術の見よう見まねだ。多人数で囲んで、不意打ちや暗殺を仕掛けるのも、ラディさん流なのさ!」ゴオ
「ふぁ~はははは!そしてわしは欲望の悪魔じゃぞ~っ!悪魔の戦いにタイマン勝負など期待しておらぬだろうな!徒党を組んで数で勝つのは、大陸でお決まりになるほどの常套手段なのじゃよ~!」デスリンボー
「くうぅ!斬られたのに、エネルギーを失ったのに苦しくないなんて……!むしろ苦しみが減って心が軽いなんて!これじゃあ私は……、誰も苦しめられないじゃないかあああぁーっ!!」イレグラ
体中の苦しみエネルギーを費やし、イレグラの術が強制発動する!
それは、本来であれば発動に時間のかかるような強大な術であった!
しかし、イレグラが過多の感情エネルギーをつぎ込んだことにより、本来発動するはずのない術が誤作動を起こし、強制発動したのだ!
イレグラを中心に、天地が鳴動するように揺れ始める!
「こ、これはっ!200年前に海の民を滅ぼしたものと同じ……いや、その何十倍もの感情エネルギーの爆発!」デスリンボー
「この揺れは一体!?何が起こるってんだ!?」ゴオ
「聞けゴオ!これは200年前、悪魔ソーリーが海底火山を噴火させた術の上位互換となる自爆技じゃ!しかもこのエネルギー量と術の威力……っ!リンボーヒール村など、容易く粉みじんとなってしまうぞっ!」デスリンボー
「な、なにぃ!?」ゴオ
神殿内を重々しい苦しみのエネルギーが包み込む。
村中の苦しみを圧縮したエネルギーは、行き場を求めてゴオにも蓄積していく。
神殿の扉から苦しみのエネルギーが出ていくことはなく、苦しみの感情はなにか大きな力で押さえつけられているように神殿内に留まっている!
苦しみエネルギーに蝕まれたことで、ゴオは苦痛の表情を浮かべる。
「ぐううぅっ!こ、この肌に染みるような冷たいエネルギー!胸を締め付けるような感情の精神制圧力っ!し、心臓が張り裂けそうだっ!」ゴオ
「大丈夫かゴオ!くっ、わしの感情変換では追いつかんか!」デスリンボー
デスリンボーが、ゴオの受けた苦しみエネルギーを欲望に変換する。
しかし、周りの苦しみの流入速度の方が早く、ゴオの体は苦しみのエネルギーに制圧されていく!
そんな様子を見て、イレグラは笑いを浮かべる。
今もなお苦しみエネルギーを排出し続け、瀕死の状態の彼女であるが、それでもデスリンボーとゴオをあざ笑っている!
「あははははっ。私のエネルギーは間もなく尽きる。だけど苦しみエネルギーが流出したから、とても晴れやかな気分だわーっ。私が気分よく瀕死に陥り、あなたたちが地獄の苦しみの中で力尽きる……。ああ、この上なく気分がいいっ!」イレグラ
「ぐうぅ!デスリンボーっ!俺のことはいいから、やつの術を止められねーか!このままじゃ、イレグラの思い通りに事が進んじまうぜっ!」ゴオ
「あれは本来、何日もかけて発動するような術じゃ!そんな術に対抗できる手段など、すぐに用意することはできぬわ!そもそも苦しみのエネルギーに守られていて、奴には近づけん!」デスリンボー
「て、てめぇ……!そ、それでも欲望の悪魔かっ!パートナーの最後の望みだぜっ……あらゆる手を尽くしてでも、叶えて見せやがれっ!」ゴオ
悪魔の剣を支えにして、ゴオは叫ぶ。
体に悪影響を及ぼすほどの苦しみエネルギーは、ゴオの体力と精神力を着実に削り取っていた。
それでも彼は立ち上がり、必死な様子でデスリンボーを鼓舞しているのだ!
「その剣は。……ゴオ!望み薄じゃが、奴に対抗できる可能性をひとつだけ思いついたぞっ!」デスリンボー
「ふっ、望み薄か……っ!望みがあるなら、勝つのは俺たちじゃねえか!」ゴオ
「わかっておるの~っ!ではいくぞっ!はあああああぁーっ!」デスリンボー
デスリンボーが両手を広げると、即座に術が発動する!
術の効果によって、デスリンボーの体の先端が欲望エネルギーとなり、ゴオが支えにしている剣へと吸い寄せられていく!
「なんだぁ!?」ゴオ
ゴオが驚いて悪魔の剣を手放したタイミングで、デスリンボーの体と剣の取っ手が結合する!
デスリンボーと悪魔の剣が合体し、なんとも奇妙な剣が爆誕した!
剣の取っ手から顔だけを出して、デスリンボーが呼びかける。
「成功したぞゴオ!わし自身が悪魔の剣となることで、剣の変換機能の容量を、全て吸収機能として運用しておる!イレグラに剣をぶっ刺せば、苦しみエネルギーを剣に封じることができるぞい!」デスリンボー
「…………はっ!あ、ああ!これで終わりにしてやる!」ゴオ
「時間はないが気を付けるのじゃぞ!お主の体はもう限界が近い!」デスリンボー
「任せなっ。イレグラは動けそうにない!すぐにトドメを……。ぐぅ!?」ゴオ
剣を構えて歩いていたゴオだが、足が止まる。
彼の前には、イレグラから発される苦しみエネルギーの渦が立ちはだかっている!
ゴオの限界の体力では、大量の苦しみエネルギーに近づくことですら難しい!
立ち止まった体を、無理にでも進めようとするゴオ。
しかし莫大なエネルギーの渦が、敵の侵入を拒んでいる!
「くううぅっ!す、進めねえだとっ!あと少し、ほんの数歩進めば剣がイレグラを貫くってのに!や、奴はもう動けないってのにぃ~っ!」ゴオ
「焦るなゴオ。その苦しみエネルギーの渦には、わずかに層の薄い部分が渦巻いておるっ!剣を通して、エネルギーの弱い部分を感じ取るのじゃ!そして欲望の活路を切り開けっ!」デスリンボー
「へ……瀕死の人間に無茶言いやがるぜ。だが、俺は欲望の悪魔のパートナーだ!イレグラの野望を打ち破ることが、俺の望み!欲望の活路は俺が開くっ!…………来た!そこだあああぁっ!」ゴオ
ゴオが構えた剣を振り下ろす!
悪魔の剣は、周囲に渦巻く苦しみエネルギーを吸収していく!
剣で切り裂かれた箇所は、比較的エネルギー量が少なく、悪魔の剣で道を開けるくらいには層が薄くなっていた!
ゴオの剣技は、そのエネルギーの少ない部分を見事に捉えていた!
悪魔の剣の一撃により、一部の苦しみエネルギーが取り除かれ、イレグラまでのわずかな道が開いた!
ゴオは迷うことなく、苦しみエネルギーの渦中に飛び込んでいく!
「お前の企みもここまでだーっ!イレグラぁっ!」ゴオ
ゴオは叫び、イレグラにまっすぐ向かっていく!
イレグラはすでに、体が消えかかっていた。
苦しみのエネルギーを使い果たし、存在そのものが危うくなった彼女には、声も出すためのエネルギーすらも残されてはいない。
しかしそれでも、ふらつくイレグラは、ゴオとは反対側に移動しようとしている。
もはや立つ力もないのか、体を浮かせて、目の前にある苦しみの渦の中へと身を投じようとしている!
「やれゴオ!渦の中からであれば、容易く苦しみエネルギーを吸収できる!」デスリンボー
「ああ……!これでトドメだぁーっ!」ゴオ
ゴオは剣を両手で持ち、体を何回転もさせて、大きく振り払った!
内側からの斬撃により、苦しみの渦はどんどんと形を失っていく!
渦としての勢いとパワーを失った苦しみエネルギーは、渦状のときとは段違いの速度で悪魔の剣に吸収されている。
あっという間に渦の原型は崩れていき、同時に、発動していたはずの術もエネルギー不足により効果を失った。
ふたりは、大きな被害をもたらすはずの術を見事に阻止したのだ!
イレグラは渦と共に苦しみエネルギーを吸収されて、コアとなるエネルギーを全て失ったことで、完全に消滅してしまう。
イレグラという存在はこの世から消え去り、苦しみの悪魔の脅威は打ち破られた!
欲望を持つ悪魔と人間は、ついに村を支配する悪魔に勝利したのだった!
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