第3話:怒りの悪魔ソーリー
使い魔トオを倒し、神殿へとやってきたデスリンボーとゴオ。
怒りのオーラで満たされた神殿を前に、ふたりは立ち止まっていた。
神殿には大きな扉が付いており、少しだけ開きかかっている。
「この凄まじいエネルギー!ソーリーがここにおることは間違いないわい。ゴオ……心の準備はできておるんじゃろうな?」デスリンボー
「ああ。奴には、昔なじみの仲間たちが殺されているんだ。だが……俺の中には怒りではなく、奴を討ちたいという欲望が渦巻いている!」ゴオ
「くくく、それでこそわしの仲間よ。今のお主に、奴に付け入られる隙はない!あとは死力を尽くすのみじゃー!」デスリンボー
ふたりは神殿の扉を開け放った!
すると、神殿の中から飛んできた空気の刃が、ふたりの間を掠めていった!
ふたりの体には、ほんのわずかな切り傷がついている。
「うおっ!?」ゴオ
「こ、この技はアイムと同じ!?じゃが、このわしの体にも傷がついておる。ということは、そこにいるなソーリー!」デスリンボー
「ちっ……怒りを抑えていたな。まあいい、今のは挨拶代わりだ。……入ってくるがいいクズ共!私が直々に相手をしてやろう!」ソーリー
円形に作られた室内の中心に、怒りの悪魔はいた!
圧倒的な怒りエネルギーを身にまとい、刃物のような長く鋭い爪を構えるソーリー。
彼女の次なる攻撃の準備は、すでに整っている!
ふたりが突入すれば、先ほどよりも正確な攻撃が飛んでくることだろう!
ゴオとデスリンボーは、扉の陰に身を潜める。
「ま、待ち構えていやがる!俺たちが神殿内に足を踏み入れた途端、奴は遠距離攻撃で、いとも簡単に俺たちを引き裂いちまうつもりだ!」ゴオ
「あれは……感情エネルギーの直接変換と、大気に感情を乗せる術のコンビネーションじゃな!どちらも上級悪魔でしか使えない技法!それをあの空気を飛ばす技に上乗せするとは……上級悪魔となって数日とは思えん熟練度じゃ!」デスリンボー
「上級悪魔となって数日だと?愚かなっ。私は海底火山に封印されている数百年もの間、上級悪魔としての動き方を探求し続けていた。つまり……私の上級悪魔歴は200年だっ!数日前に上級悪魔化した貴様とは、年季が違う!」ソーリー
ソーリーは自身の爪を振りかざした!
ソーリーが爪で空気を切り裂くと、圧縮された空気の刃が、神殿の出入り口に向かって飛んでいく!
空気の刃は扉を突き抜けていき、扉の中心近くにいたデスリンボーのすぐ横を通り抜けていった!
その様子を見て、デスリンボーとゴオは神殿の壁の裏にまで移動する。
「……だ、そうだ。どうするデスリンボー?200年に渡る探求の結果とやらが、待ち伏せなところを笑ってやりて―が。……俺は正直、突破できる気がしない」ゴオ
「打ち破るに決まっておるっ。ゴオ、わしの後ろについてくるがいい。むむむむむ~っ」デスリンボー
デスリンボーは術を使用する。
デスリンボーの術により、彼の周囲に半透明の壁が構築されていく。
バリアだ!
半透明で球状の壁は、デスリンボーの背後以外を覆っている。
バリア自体は動き、デスリンボーの動きに合わせて移動している。
デスリンボーが地面に降り立つと、バリアの下部がぐにゃりと曲がり、球状を崩してまで悪魔の足元をカバーしている。
「そ、その壁でソーリーの攻撃を防ぐというのか?いや……、俺は信じるぜ!あんたの後ろについていけばいいんだな!」ゴオ
「ではいくぞい!突撃じゃ~っ!」デスリンボー
デスリンボー先頭にして、ふたりが神殿内へと突入する!
神殿内で待ち構えていたソーリーは、先ほどと同じように攻撃を開始する!
怒りの悪魔から放たれた一撃は、風の刃となってデスリンボーに襲い掛かった!
空気でできた刃は、デスリンボーを囲むバリアと衝突して、火花を散らしながら押し合う!
そのまま空気の塊は霧散して、バリアの前面にはひび割れが残った!
「なんだとっ。小癪な……!」ソーリー
ソーリーが再び風の刃を飛ばすと、今度はデスリンボーのバリアと相殺した!
しかしすでに、彼女のすぐそばまでデスリンボーとソーリーは辿り着いていた。
神殿の中心にて、デスリンボーとゴオは、ついにリンボーヒール村の支配者であるソーリーと対峙したのだった!
「来ちゃったよん」デスリンボー
「ああ来たぜ。お前の悪行もここまでだっ!」ゴオ
「ちぃ……っ!目障りな虫けらどもだっ。身も心も上級悪魔になりたての分際で、この私に歯向かおうとは!」ソーリー
「ふんっ、上級悪魔としての年季など無意味じゃわい!そんなもので勝負に勝てるなら、中級悪魔時代のわしは、貴様に負けておらんっ!」デスリンボー
「それは私が強かっただけのこと。再び切り刻んで、その身に思い知らせてやろう……!私の強さを、地獄で語るがいいっ!」ソーリー
ソーリーが爪を構えて、デスリンボーに飛びかかる!
あっという間に距離は縮まり、ソーリーはデスリンボーの目前にまで迫っていた!
しかし彼女の爪は振り下ろされることはなかった。
ゴオが悪魔の剣で、ソーリーの構えている側の爪を押さえつけたのだ!
「な、なにっ!?」ソーリー
「隙だらけじゃぞっ!」デスリンボー
動きが止まったソーリーの脇腹に、デスリンボーは硬質的な両手をクロスさせるように振り下ろした!
飛び交う両手に切り裂かれ、ソーリーの胴の左右から怒りエネルギーが流れ出る。
デスリンボーの攻撃には、上級悪魔の力で変換した怒りエネルギーが上乗せされており、怒りの悪魔であるソーリーにも通じたのだ!
「覚えているかソーリー!1週間前、お前を掘り当てるために行動していた、ラディ発掘部隊のことを!」ゴオ
「ら、ラディだと?貴様、あの上質な怒りエネルギー女の関係者か!」ソーリー
「そうだ。俺はラディ発掘部隊の補充要員ゴウ。ラディ総隊長の暗殺剣術に心奪われた男……!悪魔よりも歪んだ心と剣技で、みんなの仇を取る!」ゴオ
ゴオはふらふらとした足取りでソーリーの元へと寄っていく。
そして、ソーリーが剣の間合いに入ったその瞬間、ゴオは悪魔の剣をソーリーに向けて振りかざした!
ソーリーは即座に身を引くが、顔にかすり傷を負ってしまう。
「く……仇討ちだと。息巻く割には大した攻撃ではないなっ。所詮、貴様の仲間に対する思いなど、その程度なのだ!」ソーリー
「まったくその通りだぜ。仇であるお前への怒りなんてこれっぽっちもない。俺の怒りを感知できないお前を、一方的にいたぶってやりたい一心なのさ!……わかるか?これが本来のラディ総大将が使う、暗殺剣術の心得ってわけだ!」ゴオ
「ちっ、人間が舐めるなぁ!」ソーリー
ソーリーが大きく爪を振り上げる。
しかし、ソーリーの動作に合わせるように、ゴオの剣もソーリーの爪を追っていた!
ソーリー爪を上げ切ったところに、ゴオは剣を悪魔の爪に向けて押し付ける!
ソーリー自身が爪を振り上げた勢いと、ゴオの剣の勢いが合わさることで、ソーリーは後ろに転んでしまう。
「く……っ!」ソーリー
空中を転がっていき、少し離れた位置で体勢を立て直すソーリー。
剣を構えるゴオを睨みつけ、怒りの表情を浮かべる。
そんな怒りの悪魔を目にしたゴオは、剣先をソーリーに向けた。
ゴオの顔には、余裕のある笑みが浮かんでいる。
仲間の仇を前にしているにもかかわらず、その顔には一切の怒りがない。
「ここ数日、悪魔のことを知ったときには驚いたぜ。なんせ、発掘部隊がこの事態を招いたっていうんだからな。街で待機していた補充隊長からはこういう話を聞いたよ。悪魔が復活した日、ラディ総隊長はなんか不機嫌だったと」ゴオ
「感情は、対応する悪魔へのダメージ源となり得るが……。悪魔側は立ち回りを読んだり、エネルギー補給に使ったりなどもできるからのぉ。よほどの実力差がない限りは、対応する感情は押さえた方がベストというわけじゃ」デスリンボー
「総大将の不覚は二つ。悪魔への理解が及んでいなかったことと、悪魔への攻撃手段がなかったことだ!だが、俺にはすべてがそろっている!デスリンボーという仲間と、この悪魔の剣、死にかけの男から託された意志……、そして総大将の剣術だ!俺に負けはない!」ゴオ
「悪魔と人間と死者どもによる、種族を超えた絆じゃ!ソーリー!わしらの力で貴様を完全に葬ってやろう!」デスリンボー
「そんなもの……私の前では無力!滅びよっ!」ソーリー
ソーリーが力強く空気を切り裂く!
圧縮された空気の刃は、まっすぐにゴオの首に向かって飛んでいく。
しかし、空気の斬弾がゴオに届くことはなかった!
デスリンボーが浮遊する両手を飛ばし、圧縮された空気を受け止めたのだ!
その間にゴオが、風の刃を横から剣で叩き切る。
悪魔と人間のコンビネーションが、ソーリーの一撃を打ち破った!
「ば、バカな……!最強種族である海の民の一撃を、史上最強の悪魔である私の一撃をっ、貴様らゴミどもが打ち破るなどっ!」ソーリー
「貴様がひとりなのに対して、わしらはふたり!仲間を利用して捨てるだけの外道に、わしらは倒せぬわ~っ!」デスリンボー
「ふっ、これでトドメだっ!」ゴオ
デスリンボーとゴオが同時に襲い掛かる!
ソーリーの反撃は的を絞り切れておらず、ふたりは息を合わせて避けていく。
そして、悪魔と人間の同時攻撃が炸裂した!
「ぐおおおぉっ!バカなっ!バカなあああぁーっ!」ソーリー
デスリンボーの両手による攻撃により、ソーリーの体から大量の怒りエネルギーが失われていく!
そして、わずかに残ったソーリーの怒りエネルギーを、悪魔の剣から発せられる怒りエネルギーが消失させていく!
攻撃を受けたソーリーの体には、ほんのわずかな怒りの力すらも残っておらず、怒りの悪魔は存在そのものを失ってしまった!
こうして、怒りの悪魔ソーリーは完全にこの世から消失したのだった。
「……終わったのか?」ゴオ
「ああ。コアとなる感情を完全に失ったとき、悪魔は死を迎える。怒りエネルギーをすべて失い、ソーリーは消滅したというわけじゃ。復活することのできない本当の死じゃよ」デスリンボー
「そうかっ。ついにあの残虐な悪魔が滅び、リンボーヒール村に平和が戻るというわけだな!」ゴオ
「そうじゃろうな~。……む?」デスリンボー
そのとき、神殿に異変が起こった!
大きな地響きと共に、とある感情エネルギーが神殿内に流れ込んできたのだ!
その感情エネルギーは、ソーリーが滅びたはずの場所に集まり、人型の姿となって形作られていく!
「こ、これはっ!感情エネルギーが神殿内に流れ込んでおるではないか!?こ、この身に覚えのない感情はなんじゃ!?」デスリンボー
「お、おい!そこのソーリーの死亡場所になにかがいやがるぜ!まさかソーリーじゃないのか!?」ゴオ
「い、いや!ソーリーは完全に消滅したはずじゃ!あそこにいるのは……全く別の何かじゃあっ!」デスリンボー
揺れが収まってもなお、感情エネルギーの集合は止まらない。
感情エネルギーは集まっていき、人型の体を形作っている!
その体は先ほどまで存在していた、ソーリーの体とまったく同じ姿をしている!
「そ、ソーリーだ!やはりこれは、ソーリーが復活しようとしているに違いない!ならこの悪魔の剣を、奴の復活前にぶっ刺すしかねーっ!」ゴオ
「ま、待てゴオ!そやつは怒りの悪魔ではないんじゃぞーっ!」デスリンボー
デスリンボーが制止する前に、感情で形作られていく体に剣を突き立てるゴオ。
しかし、ソーリーの体から感情が流れ出ることはなく、傷もすぐに再生していく。
そして動き出したソーリーの体は、ゴオの腹部を蹴りつけた!
ゴオはとっさに剣で防ぐが、悪魔の剣は砕かれ、ゴオの体も吹っ飛ばされる!
「ぐああっ!」ゴオ
「ゴオ!」デスリンボー
蹴り飛ばされ、神殿の壁に叩きつけられるゴオ。
青年の意識はすでになく、大きなダメージを受けたことで深い眠りについている。
デスリンボーはとっさに青年の生存を確認する。
「死んではおらぬか。だが危険な状態じゃな。本来、人間が上級悪魔と渡り合うなど無理な話。それをこの男は、気合だけでソーリーに食らいついておったからな。そして緊張の糸が切れたところで……奴にやられてしまった」デスリンボー
デスリンボーが感情が集まる中心を睨みつける。
そこには、先ほどまで同じようにソーリーの姿があった。
外見こそ同じものの、怒りを全く持たない存在。
そんなまったく別の悪魔ともいえる存在が、ソーリーとは思えないような明るい笑みを浮かべている。
「えっへっへ。よーやく思い出したわ。そう、私はソーリーなんかじゃない!苦しみの悪魔イレグラ!それが私の正体だったはずよ!……た、多分ね」ソーリー
苦しみのエネルギーに包まれた悪魔が、天に向かって自己紹介をする。
そう、ソーリーの正体は苦しみの悪魔だったのだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます