第2話:悪政を叩き潰す

夕日が輝く空の下、デスリンボーたちはリンボーヒール村へと到着した!

しかし村は荒れ果てており、家の中にいる村人たちの恐怖の感情が、村の入り口にいるデスリンボーの元まで溢れてしまっている。


「おお、なんという有様じゃ。ほんの数日前までは、何千人という人々の欲望で溢れておった村が……」デスリンボー

「これも悪魔ソーリーの仕業だ。やつは海の民とやらへの恨みつらみを、村人をいたぶることで解消しているのさ」ゴオ

「ふん。上級悪魔になって、感情集めすらも怠るようになったか」デスリンボー


ふたりは荒れた村を歩いていき、大きな広場に辿り着く。

広場のいたるところに、傷だらけの村人が倒れている。

広場の村人はすべて息絶えていた。


「ここは、ソーリーの忠実なしもべである、トオの使い魔の処刑場だ。村人たちの話によると、この奥に見える神殿から、ソーリーやトオがやってくるらしい」ゴオ

「ソーリーはそこにおるということだな」デスリンボー

「ああ。今はまだ日が落ちる前だから、トオは神殿に居るはずだぜ。俺たちが神殿のそばに隠れている間に、トオはこの広場に向かい、ひとりでいるソーリーを襲撃できるって寸法さ」ゴオ

「おいお前たち!このトオ様の処刑場で何をしている!」トオ


広場の真ん中で話しているふたりに、上空から使い魔が呼びかける。

ソーリーの忠実なる使い魔、トオだ!

悪魔の翼が背中から生えており、屈強な大男の姿をしている!


「……すまない、バレちまったぜ」ゴオ

「ふあはははっ。ただの人型使い魔にビビッておるのか~?わしは格上の上級悪魔じゃぞっ!」デスリンボー

「バカめ!僕に歯向かったことを後悔させてやる!奥義、風切り悪魔拳!」トオ

「なにっ、これはっ!」デスリンボー


トオが手を横に振るうと、押し出された風が、刃のようにデスリンボーに迫る!

風の刃は悪魔の体を貫き、近くにあった壁に傷をつけて消滅した。

貫かれたデスリンボーの体は、瞬時に欲望エネルギーによって修復していく。


「今の技、海の民と同じものか!」デスリンボー

「気づいたみたいだな。僕はソーリー様の力により、海の民そっくりの怒りを手に入れたのだ!さらに、海の民の技をマネできる肉体にしてもらった!つまり……僕こそが、地上最強の戦士というわけさーっ!」トオ


トオがデスリンボーに飛びかかる。

拳を振り上げ、直接デスリンボーに殴りかかった!


それに対して、デスリンボーは片手を突き出し、トオの拳を受け止めた!

硬いものを殴ったような音が響き、トオは自分の拳を押さえて倒れ込む。


「うあああーっ!つ、突き指した~っ!」トオ

「なるほどな。動きは確かにそっくりだわい。じゃが……そんなパワーでは中級悪魔すら仕留められんの~っ。ふぁ~っはっはっは!」デスリンボー

「ぐう~っ、もう許さない!こうなったら、人間10人をワンショットキルできる最終奥義で、お前の息の根を止めてやるっ!」トオ

「ワンショットキルじゃと?ふん、やってみるがいい!」デスリンボー


起き上がったトオは目を閉じ、拳に力を蓄えていく。

そして、力強く拳を一直線に突き出した!


「最終奥義、頭砕人間殺し砲拳ーーーっ!」トオ


トオの拳によって押し出された空気の塊は、目の前にいるデスリンボーの顔を目掛けて飛んでいく!

鉄のように固い空気の砲弾は、デスリンボーの煙の頭部を吹き飛ばした!

砲弾の周囲の衝撃波はかなりのもので、デスリンボーの首から上は綺麗さっぱりなくなっている。


デスリンボーを貫いた空気の砲弾は、村の塀に小さなクレーターを残して、散り散りに消えてしまう。


「で、デスリンボーーーっ!」ゴオ

「ふう~っ。これこそが、怒りで体を超強化してようやく撃てる、最強の最終奥義!ふふ、勝負はついたね!頭を吹き飛ばされて死なない生物などいない!」トオ

「ふあはははぁっ!貴様はどうにも、根本的な勘違いをしておるようじゃなぁ~っ!そらっ!」デスリンボー

「なにぃ!?ぐあぁっ!」トオ


頭部を失ったデスリンボーが動き出し、トオに硬質的な片手を叩きつけた!

トオの体は地面に叩きつけられ、何回か宙を舞いながらながら、広場の中心まで吹き飛ばされた!


吹き飛ばされた使い魔は、地面に倒れ伏している!

鉄よりも硬い手が直撃してしまい、すでにトオに戦闘の余力は残されていない。

彼の体の内部は、ハンマーで砕かれたようにズタボロになっている!


「ぐ……!」トオ

「す、すげー。あの恐ろしい使い魔を倒しちまった。……はっ!それより無事だったんだな!」ゴオ

「当たり前じゃ。頭もすぐに元に戻るぞい。ほれこの通り」デスリンボー


デスリンボーの首から上に欲望が集まっていき、消えてなくなったはずの頭を形作っていく。

数秒もしないうちに、デスリンボーの頭部は復活した!


「ふ、吹き飛ばされた頭が復活した!まさか無敵なのか!?」ゴオ

「くくく、わしら悪魔の体はな、体と同じ感情でなければ傷つかんのだよ。あそこの使い魔のように怒りエネルギーしか持たぬものは、わしに傷一つ付けることはできん」デスリンボー

「……待てよ。じゃあソーリーは倒せないのか?」ゴオ

「いいや。中級悪魔以上であれば、自分の感情以外も発することができる。そして上級悪魔の今なら、攻撃や術などに他の感情を織り交ぜることもできるわい。……それと、お主らのような生き物の体には、量は少ないがすべての感情が詰まっている。1万回くらいぶん殴れば、多分倒せるんじゃないか?」デスリンボー

「気の遠くなる話だな。……うだうだ考えても仕方ねえ。行くか!」ゴオ


ふたりが広場を離れようとした、その時!

彼らの背中に、赤い光が差し込んだ!


「な、なんだ?」ゴオ

「こ、これは……」デスリンボー


異変に気付いたふたりが振り返ると、広場の中心に倒れている使い魔の体が、赤く発光していた!

息もわずかなトオの体から、どんどんと怒りエネルギーが失われていく!


「これは悪魔の術かっ!?しかもこのパワー、間違いなく上級悪魔によるものっ。ソーリーの仕業じゃ!」デスリンボー

「や、やつがこの近くにいるのか?」ゴオ

「いや、恐らくは特定の条件で発動するタイプの術じゃろう。しかし酷いことをしおるわい。この使い魔を完全に殺すつもりのようじゃな」デスリンボー

「思い……出した……っ」トオ


ふたりがトオの様子をうかがっていると、当の本人が声を絞り出す。

ボロボロの体で、更にはエネルギーまで流れ出ている使い魔は、口だけを動かして言葉を発している。


「ぼ、僕は……よ、妖精だったんだ……。僕は、トオじゃない……!妖精の……アイムだ……っ」トオ

「な、なんじゃとぉ!?お主本当にアイムなのか!?」デスリンボー

「そう……。たしか……上級悪魔となった……ソーリーに、人間たちとの……やり取りを、聞かれていて……っ。裏切り者に、用はないと……記憶を奪われて。い、怒りの力や、悪魔の体を……与えられてっ」トオ

「と、とりあえず延命処置を……」デスリンボー


欲望エネルギーを変換して、怒りエネルギーに変えようとするデスリンボー。

しかし、そんな欲望の悪魔の行為を、トオの言葉が遮った。


「い、いいんだ……。僕の怒りエネルギーを……補充すれば、ソーリーに奪われ……奴の力が増してしまうから……っ」トオ

「ええいうるさい!わしが己の欲望に歯向かえば、それこそ勝負どころの話ではないだろうがっ!むううぅ~ん!」デスリンボー


デスリンボーの術により、彼自身の欲望エネルギーから作り出した怒りエネルギーを、トオの体へと流し込む。


しかし、デスリンボーのエネルギー変換速度よりも、トオのエネルギー流出速度の方が早かった!

トオの怒りが尽きるまでの時間はわずかに伸びたが、それでもあと何回か言葉を交わし合う頃には、彼の怒りエネルギーは尽きてしまう。


デスリンボーのは首を横に振る。


「だ、ダメじゃ。ぎりぎり延命だけは間に合ったが、もはや貴様が命を失うまでに一刻の猶予もない。わしが術を解けば、直後に命は尽きるだろう」デスリンボー

「何とか助けてやれないのか?こいつは操られていただけの犠牲者なんだろ!このアイムってやつを欲望側に引き込むとか、あんたが怒りの悪魔になるとかさ!」ゴオ

「どっちの方法も、術が途切れるから無理なんじゃっ」デスリンボー

「い、いいんだ。……記憶を奪われていた間、ソーリーの悪政に加担した……その報いだろう……から。そ、それより、僕の最後の望みを……」トオ


トオの力を振り絞った言葉に、デスリンボーは深く頷く。


「ああ、わしが最後の欲望を聞き遂げてやるわい」デスリンボー

「僕は……、き、消えてしまう……けどっ。僕のことは……忘れて……部下を信じる心を……、と、取り戻して……っ」トオ

「なにっ!?お主、わしの仲間不信を知っておったのかっ!?ま、まさか……っ!ソーリーの恐怖に負け、裏切ってもなお、わしの身を案じて見守り続けておったというのか!?」デスリンボー

「…………あたりまえだよっ。村が海に沈んでからも……危険を承知で……ずっと見守っていたんだ。前に……ご主人様を狙う……人間に捕まったときも……最後まで、何も話さなかった……。僕の、ご主人様……だもん。本心では……裏切ってなんかいなかったんだ。うう……っ、さようなら、ご主人様……っ」トオ


怒りのエネルギーが尽き、体が消えていくトオ。

別れの言葉を述べてから数秒も経たないうちに、大男のような体は跡形もなく消え去ってしまう。

こうして、使い魔トオの命は尽きたのだった。


「……消えちまった。くそっ、自分の仲間の命までも奪いやがるとは!怒りの悪魔め、どこまでも非情な奴だ……っ!」ゴオ

「怒るなゴオ。ソーリーの前でやたらに怒りを撒き散らせば、あっという間に奴の術中に落ちてしまうぞっ。欲望を……わしと貴様の取り柄である、欲望だけを胸に秘めておくのだ!ソーリーを倒したいという欲を……っ!」デスリンボー

「だ、だがよ!あんたら悪魔に通じるのは、体と同じ感情だけなんだろ!ソーリーは怒りの悪魔だという話だっ。怒りを宿して殴るのが、俺にとって効率のいい倒し方のはずだろう!?」ゴオ

「……いいじゃろう。アイムの本心を聞けて、わしもお主を信じてみたくなった。ちと早いが、今すぐお主にこれを託しておこう!ほれっ」デスリンボー


デスリンボーは煙の体から、剣をぽいっと地面に吐き出す。

ゴオが剣を拾うと、デスリンボーは説明を始めた。


「そいつは悪魔の剣。中級悪魔の術で作れる、生き物専用の剣じゃよ。感情を変換したり、変換後の感情を蓄積することができるんじゃ。その剣だと、欲望を怒りに変換する仕組みになっておる」デスリンボー

「変換した方が強いのか?」ゴオ

「もちろん。じゃがそれ以上に重要なのは、剣に蓄積された感情は奪われにくいところかの~っ。剣内部に感情エネルギーが圧縮されとるから、生き物の感情のように手軽に吸収などできんのだよ。剣を砕くか……、感情を排出するための刃の側面から、氷を削るように吸収するしかない」デスリンボー


デスリンボーの説明に、ゴオは感心したように剣を見つめる。

剣はすでに、ゴオの欲望エネルギーを吸収し始めていた。

剣の内部に、変換されて、怒りとなったエネルギーが蓄積していく。


「攻守一体の剣というわけか。……ありがとう。俺もあんたの言葉を信じて、怒りを抑制するように気を付けるぜ」ゴオ

「ではいくぞ。怒りの悪魔を討ち、全てに決着をつけるのじゃっ!」デスリンボー


使い魔トオを撃破したふたりは、広間を後にする。

トオの思いを知り、互いに信頼を深め合ったふたり。

ソーリーの悪行を目の当たりにして、彼女の討伐をより強く決意したふたり。

心の底から認め合った悪魔と人間は、ついにソーリーの居所へと乗り込むのだった!

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