第4話:当然敗北!悪魔デスリンボー

欲望の悪魔の手によって、英雄レアリィ団は全滅の危機に瀕していた。

そんな中、倒れ伏すレアリィの前に、地下に向かった妹ラディが姿を現した。


闇夜に紛れるように現れた妹を、凝視するレアリィ。

彼の顔には、驚きの表情が浮かんでいる。


「ら、ラディ……?もう地下の悪魔を倒したのか?」レアリィ

「…………」ラディ

「ま、まあいい。聞いてくれっ。あの悪魔に銃などの攻撃は通じない……。言い伝えにすがるのは癪だが……奴を倒すには、この剣を使うしかない」レアリィ


レアリィは上着を脱ぎ捨て、背中に担いでいた剣を渡す。

剣の取っ手はぐしゃりと歪んでおり、レアリィが背中に担いでも、外からの見た目の変化はほとんどないほどの変形具合だった。


「…………っ!」ラディ

「僕が、祖先の墓から掘り返したものだ。100年前に埋められたのに錆びない、謎のなまくら剣……!だが、悪魔を倒せるという伝承があるっ」レアリィ

「貴様……っ!その忌々しい剣を、私に見せるなあぁっ!」ラディ


悪魔のような形相を浮かべ、叫ぶラディ。

彼女が手を突き出すと、触れてもいないのにレアリィの剣が砕け散った!

ガラスが砕け散るような音を残し、跡形もなく剣は消え去る。


騒ぎに気付いたのか、デスリンボーがふたりの元へ降りてくる!


「な、なんじゃあ!?そこの小娘、欲望を奪われてなぜ動ける!?人間の分際で、なぜ感情が一切、外に漏れていないっ!」デスリンボー

「ら、ラディじゃない……!今の声は、誰だお前……っ」レアリィ

「……くくくっ。念のため、人間に仮装して始末しようと思ったが。やはり私の性には合わんようだな」ラディ


ラディの声は、リンボーヒー樹の大広間に来たときとは、まったく別のものだった。

姿はまったく同じのはずなのに、別の声。

姿はまったく同じのはずなのに、別の口調。

そう、目の前にいるのは本物のラディではなく、偽物だったのだ!


「お、お前は妹ではないっ。だ、誰だ!」レアリィ

「ふっ。貴様の妹は役に立ったからな……。特別に、私自ら名乗ってやろう。私の名はソーリー!数百年の時を超え、蘇った、史上最強の悪魔だっ!」ソーリー


自己紹介を終えるとともに、ソーリーの体から布切れのようなものが飛び出し、本来の彼女が姿を現した!


刃物のように長く鋭い爪に、マントのような翼!

髪に隠れて見えない、悪魔の角!

そして人型!

それらの特徴を併せ持つ悪魔が、人の皮を脱ぎ捨て、本来の姿をさらしたのだ!


「ソーリーだとっ!そ、そうか思い出したぞ!その声、確かに怒りの悪魔と同じものじゃっ!生きておったのか貴様!」デスリンボー

「ほう、思ったより元気そうじゃないか。……私はこれからお前を八つ裂きにして、ここにいる人間共の怒りで、上級悪魔となるのだ。だが、私の下僕となるのであれば、命だけは助けてやってもいい」ソーリー

「なぬっ?ふあ~はははっ!バカめっ!わしはもうすでに上級悪魔となっておるわい!貴様こそ、わしに服従したらどうなんじゃ、えぇ~?」デスリンボー

「ふっ。なにをバカな。姿が何も変わっていないではないか。それに……貴様がいくら上級悪魔になろうと、中級悪魔の私にすら勝てはしないっ!」ソーリー


ソーリーは爪を突き出すようにして、デスリンボーに突進していく。

その速度は中級悪魔としては中々なものだったが、上級悪魔の反射神経には到底通じないものであった。


それを確認したデスリンボーはにやりと笑い、まるで避けるそぶりも見せず、正面からソーリーの攻撃を受けた!

ソーリーの鋭い爪は、煙のような体を貫き、デスリンボーの欲望エネルギーを消失させていく!


「バカものめ~っ!他の感情でできた格下悪魔の攻撃など、わしには……っ!ぐ、ぐおあああああぁっ!」デスリンボー

「くくくっ、どうした?この私に、2度目の説明は要らんぞっ!」ソーリー


突き刺した爪の向きを変え、デスリンボーの胴から頭にかけてを切り裂くソーリー。

デスリンボーの煙でできた上半身はいくつかに切り分けられ、傷口からは、欲望エネルギーが宙へと消えていく。


「ぐおおおおおっ!き、貴様ぁーっ!謀りおったなぁっ!?」デスリンボー

「ラディとかいう女は、本当によくやってくれた。なんせ、私の討伐に地下まで来たやつらはみんな、あの女への不満と怒りが満ちていたからな。おかげで、ここに来る前に上級悪魔になることができたっ!」ソーリー


ソーリーの体から、怒りのエネルギーがあふれ出す!

その量は、デスリンボーの欲望の比ではない。

そして怒りエネルギーを纏うソーリー自身も、圧倒的なパワーを秘めている!


「で、ではラディはすでに……」レアリィ

「ふ、鈍いやつだ。貴様の妹ならそこにいるだろう。ぼろきれのような姿で、樹を這っているぞ……!」ソーリー

「な、なにっ!」レアリィ


ソーリーが指さしたのは、先ほど彼女の体内から飛び出した布切れだった。

布切れは、隊員の武器に引っかかり、飛ばされそうになっている。

レアリィが手に取ると、それは確かにラディだった。

妹の皮が、布切れのような状態になったものだった!


「うっ、おおおおおっ!き、貴様ぁーっ!」レアリィ

「危ない、総隊長っ!」ハテナ


銃を持って立ち上がろうとしたレアリィを、知将が覆いかぶさるように抑え込む。

するとソーリーの爪が、ハテナの首を深く切り裂き、通り過ぎた!

彼の喉元からは、大量の血が流れている。

傷は深く、出血は止まりそうにない!


「ほほう。今の動きに対応できるのか。とはいえ、海中での戦闘に比べれば、あまりにも鈍すぎる動きだ」ソーリー

「は、ハテナっ!ど、どうして!」レアリィ

「そ、総隊長っ。あなたは、生き残って……悪魔討伐を再びっ。こ、今度こそ、本当に世界を……救うため……にっ」ハテナ


レアリィにそれだけ言い残すと、知将は息絶えた。

悪魔討伐を総大将に託し、彼を守るために死んだのだ。


レアリィの目からは涙がこぼれる。

妹の前ですら流さなかった涙を、知将の前では流している。

それほどレアリィにとって、知将ハテナは信頼できる人物だったのだろう。

青年は、樹の床に拳を叩きつける。


「ふっ、茶番はそこまでだ。これから私はこの島を楽園へと作り変える。悪魔討伐などという、愚かな考えを持つ貴様たちなど、必要のない島だ。貴様らゴミどもは、ここで用済みというわけだ……!」ソーリー

「ここらが潮時じゃな……。はあぁっ!」デスリンボー

「むっ!?」ソーリー


ソーリーがレアリィたちに注目している間に、デスリンボーの術が発動した!

デスリンボー自身が爆発し、紫色の煙が周囲を包み込んだ!

欲望エネルギーでできた煙は、人間たちから溢れている感情の流れを遮り、悪魔の感情サーチ能力を鈍らせる!


ソーリーは慌てた様子で、辺りを見回している。


「こ、これは!煙型の悪魔には、こんな小賢しい真似ができるのか!ちっ、視界が悪すぎるっ」ソーリー


ソーリーはその場を離れ、煙の及ばない上空まで飛んでいく。


場には、レアリィと、意識を失った英雄レアリィ団の一員だけが残っている。

しかし総大将の青年を含めて、誰もその場を動けなかった。

先ほど立ち上がろうとしたレアリィも、今は膝を着いている。


「力の差がありすぎる……。僕は、どうすればいいんだ。……答えてくれよハテナ。君は、知将なんだろう。助言が欲しいんだ……」レアリィ


レアリィの懇願するような問いかけに、答えるものは誰もいない。

たとえ誰かが起きていても、彼の望む助言は、きっと得られないだろう。

圧倒的な悪魔の力を前に、戦うことを選択できる気概のある部下は、知将ハテナただひとりだけしかいないのだ。


レアリィが膝を着いてから、何分か経過したころ。

欲望の煙が消え失せ、月が再び見え始めたときに、異変は起こった!


突如、英雄レアリィ団を大きな揺れが襲ったのだ!

いや、揺れだけではない。

足場の傾きにより、巨大樹の上に横たわる彼らは、次々に空中へと転がり落ちていく!


膝を着いているだけだったレアリィも、この異常事態に気づいたのか、辺りを見回している。


「……揺れ?なんだ、この揺れは」レアリィ


立ち上がろうとするレアリィだったが、その時、急激に足場の角度が高くなった!

バランスを崩した青年は、リンボーヒー樹の上から吹き飛ばされるようにして、空中に放り出されてしまう。


「あ……っ」レアリィ


青年の瞳には、自身と同じように巨大樹から落ちていく仲間の姿と、根本のあたりから倒れていく、リンボーヒー樹の姿が映った。


レアリィは目を閉じて笑う。


「ははは……。死ぬのか。これが英雄の最後……」レアリィ


しかし程なくして、すぐに目を見開くレアリィ。

彼の体内には、凄まじい欲望エネルギーがあふれている。


「だが……。僕は、ハテナの意思だけは継がなければならない。たとえ落ちて即死するとしても……!血文字で悪魔討伐の意思だけは残し、なんとしても……成し遂げなければっ!……っ!」レアリィ


青年が強い決意を口にした直後、落下現象は終わりを迎えた。

レアリィは巨大樹から落ち、地面に激突したのだ!

こうして、英雄レアリィ団による悪魔討伐は、失敗に終わったのだった。

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