第3話:追い詰めた悪魔デスリンボー
日が落ち、間もなく夜になろうかという時刻。
静寂を感じさせる空には似つかわしくない、叫ぶような掛け声が、リンボーヒー樹の上部から発せられていた。
リンボーヒー樹の枝の上で、50人ほどの英雄レアリィ団の隊員たちが、縄を引っ張っている。
縄の片方は、枝の根元にしっかりと巻き付いており、もう片方は、樹を水平に歩いているレアリィの胴体に巻き付けられていた。
隊員たちによる、総大将の引き上げ作業が行われているのだ!
「総大将はもうそこまで来ているぞぉーっ!みんな踏ん張れーっ!」部隊長D
「おーっ!」隊員たち
枝の横幅はとても広く、隊員50人が2列に並べるほどである。
しかしそれでも、枝の根元にロープが巻いてあるので、巨大樹の本体が壁のように立ち塞がっており、広々としているとはいえない。
そんな過酷な環境の中、隊員たちはついに、総大将を枝の上まで引き寄せることに成功したのだった!
「ふうっ。ようやくゴールか。骨の折れる木登りだったよ」レアリィ
「総隊長はまだマシっすよ!俺たちなんか命綱もなしに、手に綱ひとつ持ってるだけで登り終えたんすよ!」部隊長D
「ああ。僕が樹上にこれたのも、君たちの実力と手助けのおかげだよ。……僕は、君たちの評価を見直す必要があるみたいだ。君たちの部隊だけ特別に、みんなの報酬に5割追加しておくとしよう」レアリィ
「うおおおおぉーっ!総隊長ーっ!」部隊のみんな
レアリィの追加報酬の一言で、場にいる部隊の士気が一気に上がった。
先ほどの掛け声以上の、総隊長コールで沸き上がっている!
しばらくのコールが続いたあと、隊員たちは姿勢と隊列を整え、総隊長の次の命令を待った。
「よし。それで悪魔を見つけることはできたのか?」レアリィ
「はっ!そのようです!少しばかり前に知将ハテナ様からご連絡があり、悪魔の住処を見張り中とのことっす!場所は、あそこに見える板の上みたいっすね!」部隊長D
部隊長が指さす先には、人工的に設置されたような板が見えている。
位置はレアリィたちとは反対側で、2本の平行に生えている枝をつなげるように、床板が置かれている。
床板はとても広く、島の半分くらいの面積がある。
とても、人間が用意できるような板ではない。
レアリィたちがいる枝と、悪魔の拠点がある枝の間には、複数の縄とロープだけで作った、簡易的なつり橋が用意されている。
両枝の間には、何本も並べるようにして縄が張ってあり、さらにその縄をまとめるようにロープが結んである。
レアリィが反対側の枝を確認していると、奥からひとりの男が向かってきた。
知将ハテナだ!
ハテナは手を振りながら、青年に向かって呼びかける。
「レアリィ総大将ーっ!」ハテナ
「噂をすれば。あれは知将ハテナ様っすね」部隊長D
「わかっている。どうしたハテナ?作戦に不備でもあったのか?」レアリィ
「それが。作戦通りに悪魔を包囲しているのですが、変なのです。先ほどから、ここの部隊の掛け声が、私の耳まで届いていまして」ハテナ
「む。まさか悪魔に気づかれたのか?」レアリィ
総大将の問いかけに、ハテナは首を横に振る。
しかし、決断を迫るような真剣な目で、ハテナはレアリィを見据える。
「逆に気づいている様子がないのです。ただ、ふよふよ動き回るだけでして……。ですが、あの声量で気づかないということはあり得ません。総大将、これは悪魔の奴めの罠かもしれませんぞ」ハテナ
「ふっ、そんなことか。別に構いはしないさ。罠を張っているというのならば、受けて立とうじゃないか。罠を使う前に仕留めるだけの話さ」レアリィ
「ま、まさかあれを使うのですか……!」ハテナ
レアリィが合図をすると、部隊長は腰にぶら下げていた、歪んだ棒状のものをレアリィに手渡した。
拳銃だ!
木材と金属が合わさったような拳銃を、レアリィは知将に見せつける。
勝利を確信したような表情が、青年の顔には浮かんでいる。
「銃ですか!大陸で最近流行りだという、最新兵器っ!」ハテナ
「悪魔の手など読めているさ。恐らく、侵入者対策のために板を落とす仕掛けがあるのだろう。自分は安全に着地できる位置から、板を落として侵入者を絶滅させる。ふっ……古典的な罠という訳さ」レアリィ
「なるほどっ。ちなみに悪魔は空を飛べるようなので、総大将の作戦通りだとすれば、奴はどこで板を落としても安全……!」ハテナ
「ならばもう確定だろう。そんな単純な罠を破るなど簡単さ。僕が枝の上から、こいつで奴の体を撃ち抜けばいいのさ。さあ皆。悪魔の見える位置にまで移動するぞっ!」レアリィ
レアリィたちは反対側の枝まで移動していく。
そして、あまり時間を掛けることなく、反対側の枝へとたどり着いた。
悪魔のいるという居場所は広く、せり上がっている枝の坂が邪魔になって、未だに悪魔の姿は見えない。
レアリィが近くの枝に目をやると、他の部隊がすでに待機していた。
総勢800人を超える部隊が、悪魔の居場所の目の前に揃っている。
総大将の攻撃開始の合図を、今か今かと待ち構えている!
「お気を付けください。この知将、総大将の銃の腕は存じておりますが、枝からだと適性距離外で威力が落ちますので」ハテナ
「ああ。ひとまず空に逃げられないよう、何発か撃って弱らせる」レアリィ
「くくくく、そんなことせずとも、わしから距離内に来たやったぞ?」???
「なにっ!?」レアリィ
突然天から聞こえた声に、レアリィと近くの部隊が上を向く。
すると、そこには煙のような姿をした、紫色の何かが浮かんでいた!
欲望の悪魔、デスリンボーだ!
「ふぁ~はははぁっ!わしの名はデスリンボー!この島と共に生きる、欲望の悪魔だよん!ようやく役者がそろったようなので、来てやったわい!」デスリンボー
「ふ、ふふっ。僕の名はレアリィだ!悪魔を討つ、英雄レアリィ団の総大将!世界のために、今から貴様には死んでもらう!」レアリィ
デスリンボーに向けて、銃を構えるレアリィ。
しかし欲望の悪魔に、青年から向けられた銃を気にする様子はない。
むしろ感心したように頷き、先ほどまで自分がいた、木の板の上を指さす。
「ほう、なかなか上質な欲望を持っているではないか。ふあははっ!だが、こんな視界の悪い場所では、欲望を増幅させにくいというもの。わしの用意した安全な足場で、思う存分、わしに打ち勝つ未来を思い浮かべるがいい……!」デスリンボー
「ふ、僕がそんな手に乗るとでも思ったか!」レアリィ
レアリィは、銃の引き金を引いた!
だぁん、という音とともに、銃弾がまっすぐデスリンボーへと向かっていく!
そして、銃弾はいともたやすく、デスリンボーの体を貫いた!
「どうだっ!」レアリィ
「ふぁ~はははっ!人の善意を無駄にしおって……!」デスリンボー
「な、なにっ!?」レアリィ
銃で撃たれたはずのデスリンボーの体が、すぐに元どおりに再生する。
弾丸で空いたはずの穴は、その痕跡すら残すことなく、欲望の体に飲まれて消え失せてしまう。
レアリィは、2発目の銃弾を撃つことなく、硬直していた。
銃を持つ手だけは震えているが、悪魔に対して、次の行動を起こせずにいた!
「く……っ!」レアリィ
「まあいい。これだけ強い欲望を持った人間たちが集まったのだ。わしは一気に上級悪魔になることができる!枝の上だと落ちて死ぬ可能性があるが、文句はあるまいなっ!?はあああああ~っ!」デスリンボー
デスリンボーが手をかざすと、隊員たちの体から欲望が流れ出ていく。
悪魔の術により、欲望を吸い取られているのだ!
英雄レアリィ隊の人間たちは、なす術もなく倒れていく。
「な、なんだ!?やる気が失せていく……!?ぐぅっ」ハテナ
「うあああ……っ!」隊員たち
「俺の中からなにかが消えていくっす~!」部隊長D
「僕が負けるだと……!バカなっ!この僕が、悪魔なんぞに……!」レアリィ
倒れたレアリィの瞳に、他の部隊の姿が映る。
他の部隊もレアリィたちと同じく、倒れ伏していた。
総勢800人を超える英雄レアリィ団は、欲望の悪魔に敗北したのだ!
もはや立ち上がる気力は誰にもなく、ただただ悪魔に欲望を奪われ続けている!
月が、勝者を照らし出す。
リンボーヒー樹の上で、無事でいるのは悪魔だけだった。
人間たちは皆、戦闘不能となっている。
「きたぞぉっ!上級悪魔に変身するときがっ!お主たちにも特別に、わしの変身シーンを拝ませてやるよ~ん!ふんっ!」デスリンボー
デスリンボーは、レアリィたちよりも高い位置にまで移動して、両手を広げる。
すると彼の体から、強い輝きが放たれた!
それは一瞬の出来事であり、悪魔の体に外見的な変化は表れなかった。
しかし、彼の体に宿った欲望エネルギーは、格段に力を増している!
「ふぁ~っはっはっはっは!体に欲望がみなぎってきおるわっ!……ん?おや?だが、わしの姿に変化はなさそうじゃわい。まあこれだけ欲望の力が高まれば、新しい術くらいは使うことができそうじゃがの~!ふあはははっ!」デスリンボー
「うう……。妹さえっ、いれば……っ。……ラ、ディ」レアリィ
力なく、妹の名前を呟くレアリィ。
ほとんど全員が意識を失っている英雄レアリィ団の中で、唯一彼だけが、欲望エネルギーを枯渇させることなく、意識を保っていた。
とても戦える状態ではないが、この場を切り抜けたいという欲望だけは、失ってはいなかった!
レアリィの思いが通じたのか、彼の前に、ひとりの人影が降り立つ。
その人物に気づき、レアリィは目を見開いた。
彼の目に映ったのはなんと、地下に向かったはずの妹ラディの姿だった!
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