第4話:やはり敗北!悪魔デスリンボー

アーの攻撃により、デスリンボーの煙のような顔と体は分離してしまう。

しかし、すぐに断面に怒りのエネルギーが集まっていき、数秒も経たないうちに、デスリンボーの顔と体はくっついた!


アーは後ろに飛び退き、剣を構える。


「…………!効かないだと!」アー

「愚かなっ!その剣の力は、怒りエネルギーを吸収して、欲望エネルギーに変換するというもの!普段のわしには効果てきめんだが、体のほぼすべてが怒りでできている今のわしには、怒りの感情しか通じはせぬわっ!」デスリンボー

「そういうことか。女神の剣にはそんな力が……」アー


説明を終えたデスリンボーの体に欲望が補充されて、わずかに紫色に戻り始める。

しかし、デスリンボーは自身の頭を小突くことで、再び怒りの感情を増幅させた!

紫に変化しかかっていた体も、再び赤く染まる。


「いかんいかん。怒りの感情のせいでつい話しすぎてしまったわい。もっと怒るのだわし!この有利な状況のまま攻め続けるのじゃあ!」デスリンボー

「ヨウを助けるために、一刻も早くこいつを倒さなければ!危険だが、怒りの体とやらに通じそうな攻撃は、これしかない!」アー

「な、なにぃ!?なんだ貴様っ、その剣の構えはっ!?」デスリンボー


デスリンボーが驚きの声を上げる!


なんと、アーが剣の刃先を指に挟んだのだ!

親指の先と、人差し指の第一関節によって固定された剣を、青年は平然と素振りしている。

そして欲望の悪魔に向けて、いびつに歪んだ剣の取っ手を向ける。


「愛する人から叩き込まれた、必殺の指使いだ!俺とヨウのふたりの力っ!お前のような仲間ひとり思いやれない悪魔は、敗れ去るしかない!」アー

「見せつけおって小僧がぁーっ!」デスリンボー


デスリンボーの両手が、左右から挟み込むように青年に襲い掛かった!


しかしアーは瞬時に身を屈めて、左右からの攻撃を回避する。

間に標的がいなくなったことで、デスリンボーの両手が激突!

鳥の趾のような両手が、絡まり合った!


その隙をついて、アーは悪魔の懐に潜り込む!


「怒りを吸い尽くせ……!女神の剣!」アー

「なに!ぐおおおおっ!?」デスリンボー


アーは腕を大きく振りかぶり、剣の取っ手をデスリンボーの腹部に叩きこんだ!

いびつに歪み、角がいくつもある剣の取っ手が、デスリンボーの胴体に深々とめり込んでいく。


その時、女神の剣が怪しく輝いた!

なんと、剣が一気に怒りエネルギーを吸収し始めたのだ!


本来であれば、比較的衝撃の少ない剣の取っ手。

しかし、たび重なる想定外のダメージによって、怒りエネルギーの吸収機能に異変が生じたのだ!

悪魔の体が、あっという間に女神の剣に吸収されていく!


「ま、まずいっ!ぬおおおっ!」デスリンボー


宙で絡まった両手を移動させて、自身の目の前に落下させるデスリンボー。

力強い一撃によって、女神の剣は砂浜へと叩き落とされる。


その時、砂に埋もれた剣の刃から、欲望エネルギーが放出された!


地面と、空気中と、刃に触れているデスリンボーの両手に、欲望エネルギーが流れ出ていく。

そして欲望の力によって、各箇所に異変が生じた!


まず、デスリンボーの両手から怒りエネルギーが消失し、欲望のエネルギーで満たされていく。

浸食されるようにデスリンボーの体も紫色の煙に戻っていき、欲望でできた悪魔は見事に復活を遂げたのだった。


砂浜は地響きを起こしながら、噴水のように地中の砂を吹き上げる。

砂浜のいたるところで砂の柱が吹き上がり、宙には降り注いだ砂が舞っている。


空気は乱雑に吹き荒れていた。

あちらこちらに風向きが変わり、時折人すらも吹き飛ばしてしまいそうな風が発生している。


「な、なにぃ!?この魅惑的な感情は……おお、わしの愛しい欲望エネルギーちゃんが、両手に宿っておる!」デスリンボー

「…………!これは呪いの効果!?まさか呪いの発生源は!この女神の剣だったというのか!」アー

「ふぁははははっ!ようやく気付いたのか!呪いの正体とは、剣に溜まった感情エネルギーによって発生した、異常気象!お主の声ごときでは呪いなど引き起こせやしなかったというわけじゃ~!」デスリンボー

「そうか……!リンボー英語を覚えていなかった頃の俺は、怒りで剣を抜いたときにしか声を出さなかった。ヨウと出会ったときは、女の子が襲われているからと怒り、葉っぱを斬るために剣を抜いていたっ!」アー

「くくく。剣は怒りエネルギーを欲望エネルギーに変換し、貯蓄できなくなった分は、欲を持つものや自然界に流れ出る。日ごろの行いの悪さが、声による呪いなどという誤解を生んだというわけじゃな。ふあぁ~ははは!」デスリンボー


声高々に笑うデスリンボー。

そんな欲望の悪魔の頭上に、地中に埋まっていたはずのヨウが降ってきた!

少女は煙のようなデスリンボーを突き抜けて、砂浜に軽く叩きつけられる。


「ぬぐわぁー!?」デスリンボー

「なにっ!よ、ヨウ!大丈夫かヨウーっ!」アー


アーが駆け寄って確認すると、ヨウの口にはチューブが差し込まれていた。

チューブの先は、少女の手に守られたロボットにつながっており、ロボットの体から少女の元へと伸びている。

ロボット内で生成された酸素が、少女の体内へと流し込まれている。


アーはチューブを雑に引き抜くと、少女の口元に手を当てる。

ヨウの呼吸を確認すると、青年は安心したように息を吐く。


「よ、よかった。無事のようだ。しかしヨウがどうして空から?」アー


青年が空を見上げると、地中から吹き上がった砂が宙を舞っている。


地中に飲み込まれてしまったヨウは、ロボットのチューブと酸素生成能力によって生きながらえていた。

そして、2度目の欲望エネルギー流出が発生したとき、欲望エネルギーの一部がヨウの欲に引き寄せられたのだ!

結果、ヨウの元でも砂の噴出が起こり、身軽な少女を吹き飛ばしたというのが、事の次第である。


無論、海岸にいる誰もが、この答えに辿り着くことはなかった。


「俺たちの彼女を思う気持ちが、天に通じたとでもいうのか?絆の力が、呪いを打ち破ったと!」アー

「100年ぶりくらいの厄日だわい……。海の民に関わると、本当にろくでもないことばかり起こりおる。もう、帰っちゃおう」デスリンボー

「お、おい。ロボットはどうする。色々と、誤解してると思うが」アー

「誤解でこんなことになるなら、わしはもう仲間など要らんわ!ロボットはくれてやるから好きにするがいい!わしは気軽に一人暮らしをエンジョイしちゃうもんね~!ではさらばだ人間共よ!ふあははは~っ!」デスリンボー


デスリンボーは海岸を離れ、街の方角へと飛んでいく。


こうして、アーは襲い掛かるデスリンボーを無事に退けたのだった!

青年は、海岸に横たわる少女を静かに見守るのであった。

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