第3話:狙われた悪魔デスリンボー

死んだ妹に、悪魔の討伐を誓ったヒラサメ。

妹の墓を去った後、リンボーヒール村の神殿を訪れていた。


少年は、大広間の床に突き刺さった、女神の剣を引き抜く。


「これが女神の剣。唯一、悪魔に通じる攻撃手段か」ヒラサメ


剣を手にしたヒラサメの顔から、険しさが少し失われる。

ヒラサメの中から、怒りのエネルギーが、剣へと流れ出ていた!

妹を失った少年からすれば、ほんのわずかな怒りでしかないが、それでも少しずつ、ヒラサメの中の怒りは、剣に吸い取られている!


剣を手にした少年は、神殿と村を後にする。

どんどん泳ぐ速度を速めていき、海の女神の話していた、悪魔の本拠地へと突き進んでいく!


少年は、突進のような泳ぎで、海中を矢のように突き抜ける!

広い海の中を、まっすぐ進み続ける!

ひたすら前に進み続ける!


そして、ついに悪魔の本拠地へとたどり着いた!


海底火山の近くにできた、小さな洞穴。

入り口付近には、『再来するインボウに、止めを』と、乱雑に書かれた立札が立てられている。

洞穴が、拠点として使われていることは明白だった。


ヒラサメは洞穴に近づき、入口の真正面に降り立つ。


穴の中には、奇妙な光景が広がっていた。

なんと、奥行きのあまりない岩の部屋で、1本の海草と、1体の煙の怪物が、共に踊っていたのだ!

ふたりの腰の振り付けは、完全にシンクロしていた!


煙の怪物は、誰でも不意打ちできてしまうほど、隙だらけである。


しかし、ヒラサメは動かない。

煙の怪物が踊っている間も、洞穴の入り口から動かず、剣を構えるだけだ。


少しの静寂の後、煙の怪物は両手を挙げて、背後へと振り返った。

ヒラサメと、煙の怪物の目が合う。

すぐさま声を上げたのは、煙の怪物だった!


「にゃあああぁーーーっ!?お、お前っ、いつから、わしのことを覗いておった!?こ、このどスケベの、変態少年めっ!」煙の怪物

「僕は、ヒラサメ。……妹の仇である、悪魔を討ちにきたっ!」ヒラサメ


ヒラサメは、煙の怪物との距離を詰め、女神の剣を振り下ろす。

欲望の力を宿した剣は、欲望でできた怪物の体に、傷をつけた!


ヒラサメの怒りを吸収した剣は、そのエネルギーを欲望の力に変えて、刃の内側に蓄積していた!

女神の剣には、欲望の力が宿っていたのだ!


煙の怪物は、傷を負った個所を押さえ、一歩後ろに引く。


「ぐっ……。小僧、いいことを教えてやろう。わしの名はデスリンボー!お主の想像通り、欲望の悪魔じゃよ!だがな、わしは悪いことなんか、なーんもしておらん!お主は、ソーリーのやつに騙されておるのだ!」デスリンボー

「な、なにっ?タンクという亀の化け物は、あんたの手下だろう!」ヒラサメ

「タンクじゃと?ああ、奴は確かに、ワシの部下じゃが……」デスリンボー

「僕の妹は、そいつに殺されたんだ!デスリンボーっ!お前が、部下に妹を襲わせたんだろう!僕は、絶対お前を許さないっ!」ヒラサメ


ヒラサメは、デスリンボーの顔と胴のつなぎ目を、剣で斬る!

剣の持ち方も、扱い方も、完全に素人同然の一撃であったが、あまりの圧倒的な攻撃速度に、デスリンボーは抵抗する暇もなく、ダメージを受けてしまう!


「ぐうぅっ!知らんっ!わしは、知らんぞ!なるほどそういうことかっ!欲を消しているのに、毎回居場所がバレるのは、またもわしの部下が裏切りおったからなのかっ!おのれアイム!おのれタンク!」デスリンボー

「首をはねても生きているとはね。でも、妹の痛みは、こんなものじゃなかったはずだっ!」ヒラサメ

「むうう。経験上、逃げきることも防ぎきることもできぬなっ。ならば、ならば仕方あるまい!こい小僧っ!」デスリンボー

「うおおおおぉっ!」ヒラサメ


剣を振り回しながら、ヒラサメはデスリンボーに向かっていく。

乱雑な剣捌きだが、水中とは思えない速度の斬撃が、デスリンボーを襲う!


しかし、剣が悪魔に届くよりも先に、デスリンボーの術が発動した!

デスリンボーの正面に、半透明の壁が出現したのだ!

正面だけではない!

あと2枚、デスリンボーの左右の後ろにも、同じ半透明の壁が現れた!


バリアだ!

頑丈なバリアの前では、ヒラサメの不慣れな剣術など、ただ素早いだけの攻撃同然であった!


ヒラサメの攻撃は、正面のバリアによって、弾かれてしまう。

剣での、バリア破壊は不可能!

ヒラサメの振るう剣は、完全に威力不足なのだ!


バリアに攻撃を遮られ、一瞬、ヒラサメの動きが硬直する!


「な、なに!?」ヒラサメ

「ふぁはははっ!小僧、悪魔の剣など捨てて、おのれの拳で掛かってきたらどうなんだっ!わしのバリアと力比べしようではないか!」デスリンボー

「いくら僕でも、壁の隙間を剣で狙うくらいは」ヒラサメ

「妹は、素手で殺されたのではないのかな。んーん?」デスリンボー


再び飛びかかる構えを取っていた、ヒラサメの動きが止まる。


ヒラサメは、先ほどまでとは比較にならないほどの、よりいっそう鋭い目つきで、デスリンボーのことを睨みつけている!

剣を持つ手には力が入り、女神の剣の柄が、ぐしゃりとへし曲がってしまう!

その光景は、まるでヒラサメの体が、剣での戦いを拒絶しているかのようだった!


「タンクは、強靭な肉体が武器だからのぉ。しかも、敵をなぶり殺しにする欲まで持っておった。お前さんの妹には、わしも同情しちゃうのよん。いやホント、哀れな哀れな妹さんじゃないか。もう、いっそ生まれないほうが幸せだったかもしれんなぁっ。およよっ」デスリンボー

「黙れ!」ヒラサメ

「でもな?だからこそな?この大舞台は、素手でいいと思うんじゃよ。だってほら、妹さんの殺害方法を、兄の手で再現して、復讐だなんて、兄妹に通ずる絆のようなものが」デスリンボー

「その口をっ!閉ざせって言ってんだろおおおぉーーーっ!」ヒラサメ


女神の剣を捨て、ヒラサメはデスリンボーに突っ込んでいく。

突進の凄まじい力は、洞穴内の海水を奥へと押し出し、デスリンボーを壁へと叩きつけた!

その衝撃で、デスリンボーの後ろ2枚のバリアは砕け散ってしまう!


さらに!

水圧によって、デスリンボーの正面にあるバリアが、持ち主に向かって、凄まじい速度で飛んでいく!

デスリンボーは、バリアと壁にプレスされ、まるでペイントアートのように、洞穴の壁にべちゃりと張り付いてしまった!


もはや、デスリンボーに逃げ場はない!


壁に張り付けにされた欲望の悪魔に、ヒラサメは密接っ!

拳による渾身のラッシュを繰り出した!


「うおおおおおおおおおおぉっ!」ヒラサメ


水圧の金槌によって、壁とバリアはガラス細工のように砕け、デスリンボーの体も、ばらばらに分解してしまう!

さらに、少年の拳が直接、デスリンボーの体を打ちのめしていく!


岩と共に、欲望の悪魔が粉砕する!

跡形もなく、粉砕する!

いつまでも、粉砕し続ける!

そして少年は、デスリンボーを突き抜けたっ!


少年の拳が、ふと止まる。

ヒラサメの前から、デスリンボーは跡形もなく消えていた。


しかし、欲望の悪魔は生きていた!


洞穴の入り口に、霧散した欲望が集まっていく。

欲望は煙のような形をとり、デスリンボーの顔や体となった!

しかし、体はコップに収まりそうなサイズで、手などは一切復活していない。

頭と小さな体だけ、復活できたのだ!


デスリンボーは、洞穴に背を向け、その場を離れていく。


「はぁ、はぁっ。こ、今回の刺客は、特にヤバかったわい。じゃが裏切り者の部下は死んだ。これからは、ソーリーに騙された子供に襲われることも」デスリンボー

「どこへいくつもりだ!」ヒラサメ

「はわあああぁ~……っ!」デスリンボー


洞穴から遠ざかるデスリンボーの前に、ヒラサメが回り込んだ。

その拳は、力強く握られている。


「お前には、妹に、あの世で2つのことを詫びてもらうっ!残虐なタンクに手を貸したこととっ!妹への暴言だあああっ!」ヒラサメ

「わしがいつ暴言をぐぎゃふっ!」デスリンボー


妹を奪われた少年は、小さくなった欲望の悪魔を、拳で貫いた。

拳に抉られた部分は完全に消失し、残りも全て、衝撃によって、跡形もなく海に消えてしまう。


海の民の少年は、欲望の悪魔に勝利したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る