2章 妹の敵討ち!~デスリンボーと部下~

第1話:リンボーヒールから泳ぎ行く

深海に沈む村、リンボーヒール。

100年ほど昔に水没したこの村には、海の住人たちが住んでいた。

村の少年ヒラサメもまた、深海で生きる術を持つ、海の人間である。


「こんにちは、長老のおじいちゃん。僕に用があると聞いてきたんですけど、どうかしました?」ヒラサメ


ヒラサメは、リンボーヒール村の中心にある、ボロボロの一軒家を訪れていた。

長老と呼ばれた老人は、笑顔で少年を迎え入れる。


「おお、よくきたヒラサメ。実は、海の女神さまからお告げがあっての。お主に神託を下したいとおっしゃられたのだ。今すぐ、神殿に向かいなさい」長老

「僕に神託、ですか?」ヒラサメ

「ああ。いいかヒラサメ。海の女神さまは、100年前の災害から我らをお救い下さった、守り神さまじゃ。……無礼を働くでないぞ」長老


最後に目を細めて、長老は部屋の奥へと消えていく。

残されたヒラサメは、長老の家を後にして、神殿へと向かった。


リンボーヒール村の神殿は、長老の家と同じく、村の中心部に建てられている。

かつて災厄から、村を守ったという海の女神。

そんな、村の守り神が鎮座しているという神殿は、村人にとって、無暗に立ち入れない聖域なのである。


ヒラサメは、神殿を前にして、泳ぐ足を止めていた。


「な、なんか怖いな。なんだろう……。この中に入れば、もう2度と戻ることができないような、そんな気配がする」ヒラサメ


神殿の中から漂う、莫大な怒りのエネルギー。

ヒラサメの体は、その恐るべき力を感じ取り、先に進むことを拒んでいた!

ここで止まるべきだと、全身がヒラサメに警告していた!


「ダメだ、ダメだ!僕らの守り神さまが怖いだなんて、失礼なこと考えちゃダメ!僕は、神託を受けなければならないんだ!」ヒラサメ


体の震えを押さえて、ヒラサメは神殿内へと足を進める。

泳いでいる間も、時々、体が震えてペースが落ちてしまっていた。

それでもヒラサメは、神殿の奥へと進み続けた。


神殿の大広間に辿り着いたヒラサメは、中心にいる、人間とは少し違った姿の女性と目が合った。

女性は、鋭い目をヒラサメに向け、凶器のような長く鋭い爪をともなう指を曲げて、やってきたばかりの少年を手招きしている。


ヒラサメは、ゆっくりと女性の方へと近づいていく。


「よくきた。私は、海の女神ソーリー。100年前から、このリンボーヒールを守っている女神だ。……貴様がヒラサメだな」ソーリー

「は、はいっ。神託があると聞いて、やってきました!」ヒラサメ

「聞け、ヒラサメ。リンボーヒールが海に沈んでから、約100年。何とか平和を保ってきたこの村に、新たなる危機が訪れようとしている」ソーリー

「村に危機、ですか?」ヒラサメ


ソーリーは、足元の床板を外して、床下をごそごそと漁る。

丸いガイコツを取り出したソーリーは、それをヒラサメの方へと投げ渡した!


それは人間の、顔だけのガイコツだった。

サイズはやけに小さく、大人の骨格とはかけ離れている。

そう、それは子供のガイコツ!

ヒラサメとさほど変わらない、子供の顔が白骨化したものなのだ!


ガイコツはふわふわと水の中を渡り、ヒラサメの方へと飛んでいく。

しかし、スローな動きにもかかわらず、ヒラサメは飛んできたガイコツを受け取ることはできなかった。


いや、受け取るどころか、身を大きくよじり、避けてしまっていた!


「ひぃ!」ヒラサメ

「欲望の悪魔を知っているか。100年前、空にあったリンボーヒール村を、墜落させた張本人だ。その悪魔が村を狙っている」ソーリー

「こ、このガイコツは?」ヒラサメ

「過去にも、危機が何度かあってな。その犠牲者だ。次の犠牲を出さないために、貴様には、悪魔を討伐してもらいたい」ソーリー

「そ、そんな!僕は、村にいる妹の世話をしなきゃならないんです!大人たちじゃダメなんですか!?」ヒラサメ

「ダメだ。敵は、欲望の悪魔だと言っただろう。大人では、欲望に付け込まれて、村を襲う側に寝返ってしまう。……これは、純粋な貴様にしかできない役目だ」ソーリー

「でも……」ヒラサメ


ヒラサメは、次の言葉を発することなく、黙り込んでしまう。

そんな様子のヒラサメを、ソーリーは観察するようにじっくりと見ている。


しばらくして、ソーリーはどこからともなく剣を取り出し、大広間の床に突き立てる。


「まあいい。どのみち、明日出発させるつもりだったからな。もしも明日、悪魔討伐に出向く気になったら、この剣を持っていくがいい」ソーリー

「これは?」ヒラサメ

「女神の剣という。唯一、悪魔に傷をつけることのできる剣だ。本物の悪魔には、海の民の得意とする素手での攻撃が通じない。悪魔と対峙したときは、必ず、この剣を使え」ソーリー


海の女神は、ヒラサメをその鋭い目で見つめる。

神の命令だと言わんばかりに、少年を睨みつけている!


ヒラサメは、間髪入れずに首を縦に振った。


「悪魔の進行は、すでに村の近くにまで迫っている。今のところは、私の力で食い止めているが、いずれ村に侵入を許してしまうかもしれん。……もしものときのために、敵の活動拠点を教えておく」ソーリー

「……わかりました。必ず覚えます」ヒラサメ


ヒラサメは、欲望の悪魔が住んでいる拠点を聞いたあと、ソーリーに頭を下げる。

そして、神殿を後にして、妹の待つ自宅へと帰っていくのだった。

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